IT部門の立場から、テクノロジの進化が現代のマーケティングに与えている影響と、その具体的なシステムとして「マーケティングオートメーション(MA)」を理解しておくことを趣旨としている本連載。今回は実際にマーケティングオートメーションを導入となった際に、IT部門として何を行うべきかをまとめてみたいと思います。
まず申し上げたいのが、われわれは記事執筆時点で、30社ほどの日本企業のマーケティングオートメーションの導入や活用を支援していますが、その際、IT部門が全体をリードしているケースは、1社もないという事実です。
もちろん関与がないわけではありませんが、非常に少ないのが実情です。導入プロセスがどのように進むかを整理しながら、それぞれの工程においてIT部門がとるべき行動についてみていきましょう。
導入のプロセスは主に以下のフェーズに分かれます。これは他の社内ITシステムと大きな差異はないかと思います。
- マーケティングオートメーション活用範囲策定
- MAシステム選定・導入支援ベンダー選定
- MAシステム構築
- システム活用
まず、マーケティングオートメーションの活用範囲の策定ですが、ここは、マーケティング戦略として社内で取り組むべき方向性が定められていることが前提となります。どのマーケットのどのような人に対してどのようなコミュニケーションでどうしたいのか――これがあって初めて、自社のマーケティングプロセスの、どの部分にマーケティングオートメーションを活用し、マーケティング施策の効果を高めていくかの方針が見えてきます。
“新しいモノ好き”が多いマーケティング部門は、ともするとマーケティングオートメーションの導入そのものを目的にしてしまって、自社のマーケティング活動でどのように活用するのかを見失いがちです。
IT部門としては、社内で第三者の立場として、導入の目的が正しいかどうかを確認することが求められるでしょう。もちろん、マーケティングの専門家ではないので、その目的の正当性を評価することはできないかもしれません。しかし、そこで見定めるべきことは1つだけでよいのです。「導入することそのものが目的となっていないか」という点です。
ここで難しいのは、マーケティング部門からすると社内のIT部門は、“お固いことをうるさく言ってくる部署”との認識になっていることが多く、事前の相談はなるべく避けたいと思われていることです。マーケティングはここ数年間で急激にテクノロジの活用が進み、今まさに、激しく進化していることはこの連載でも説明してきました。そして現時点では、残念なことにその主たる情報源や相談相手は社内IT部門ではないというのは認識の通りです。
話は少しそれますが、マーケティング部門が攻めのテクノロジ活用をしなければ勝てない状況にあって、それをいかに戦略的に支えていくかは、IT部門の1つのテーマになってくるでしょう。
市場の激しい変化に追随し、あるいは、それを先導していかなければならない立場にあるマーケティング部門の時間軸は、仮説ベースでプロジェクトが動きだし、実行中に得られる結果によって適宜修正をかけていくといった非常に速いものになります。事前の検証に時間をかけている間に世の中の状況が変わってしまうからです。これは、現代の企業経営そのものの時間軸と重なってもきます。IT部門がこれを理解し、この時間軸の中で、テクノロジサイドでマーケティングに携わっていくことは理想型の1つだと言えるでしょう。
活用範囲が定まると次はマーケティングオートメーションシステムと導入支援ベンダーの選定に移ります。記事執筆時点でマーケティングオートメーションシステムを提供している主な大手ITベンダーは、日本IBM、日本オラクル、日本マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、アドビシステムズ、SAS Institute Japanになります。それ以外のベンダーはマーケティングオートメーションベンダーの中ではシェアを持っていても、専業ベンダー故に先の大手ベンダーと比較すると企業規模は小さめになります。
代表的なところでは、国内勢ではシャノンやシナジーマーケティング。海外勢では、マルケトやハブスポット、エクスペリアン、サイトコアなどです。それぞれ特色があり、前段階のマーケティング成果増大のためのマーケティングオートメーション活用範囲が明確になっていれば、選択肢は自ずと絞られてくるはずです。IT部門としては、この時に2つの観点で関与する必要があります。1つは社内の他システムとのデータ連携、もう1つはセキュリティ観点です。