三国大洋のスクラップブック

米テレビ業界の苦境につけ込むアップル“ウェブテレビ”の皮算用 - (page 2)

三国大洋

2015-03-19 07:30

 ネットを使うためにケーブル事業者や電話会社と契約するものの、従来の有料テレビ放送には加入しない人々、また動画を観る第1オプションが携帯通信端末という人々――特に若い世代の人々は今後も増える可能性が高い。iPhoneユーザーなども多いそうした消費層を取り込むのは、Appleにとってさほど難しいことではないかと思われる。

 米国の有料テレビ市場の売上規模について具体的に数字を示した記事はまだ目にしていないが、冒頭に記したWSJ記事には消費者が支払う料金について「月額平均90ドル程度」という記述があり、また後述するTNW記事にも「月額80~100ドル」(なかには170ドルといった例も)といった数字が出ている。

 つまり加入者(世帯)あたりの視聴料は年間約1000ドル程度で、これに全体の1億件(世帯)をかけると、1000億ドルといった市場規模が見えてくる。

視聴率2桁低下の危機に直面する米テレビ局

 AppleのウェブTVにコンテンツを提供する立場の米テレビ局/映画会社側の状況も昨年1年間で様変わりしたような印象がある。

 Intelが一時期「Intel Media」という別動部隊を作って、この分野への本格参入を目指していたことをご記憶の読者もいるかもしれない。結局、あのプロジェクトはうまくサービスを立ち上ることができず、昨年1月に米大手電話会社のVerizonに売却されてしまった。

 同プロジェクトが難航した要因のひとつに挙げられていたのがコンテンツ確保の難しさで、「テレビ局側が最大の得意先であるケーブル事業者/衛星テレビ事業者に気兼ねして、Intel側のソロバンにあう条件を出さなかった」などという話もよく見かけた。

 ところが、昨秋にはまずHBOが「来年はウェブ経由の番組配信サービスをやる」と宣言し、それに続いて今年初めにはDish Networksが「Sling TV」というウェブ専用テレビパッケージを発表(2月に投入)。さらにHBO Now正式発表直後には、やはり前から噂の出ていたソニーのウェブ動画配信サービス「PlayStation Vue」もまもなく開始になるというニュースが流れていた。

 テレビ局側でのこうした態度の変化の背景には、動画コンテンツの配信経路としてネットの比重が高まり、同時に若い世代にとって携帯通信端末が第1スクリーンになったことに伴って、これらの消費者と接点を失いつつあるテレビ局側の苦境がある。その苦境ぶりを物語る2つのエピソードを紹介する。

視聴者の7割をマネタイズできなくなった大手テレビ局

 米大手メディアグループのひとつで現在はComcast傘下のNBCUniversalが、NBCの人気トークショーやバラエティ番組(comedy)を元にした「ウェブ専用の有料チャネルの投入を検討している」というニュースが3月初めにWSJで報じられていた(NBCUniversalは大手放送局のNBCと映画会社のUniversalがくっついてできたグループで、2011年にケーブル最大手のComcastが買収)。

 この記事には「NBCUniversal傘下の主要な有料テレビチャネルであるUSAやSyfy、Bravoなどは重要な指標とされる18~49歳の消費者の視聴率が、昨年9月以来いずれも2桁減少」「それに伴い、NBCUniversalでは昨年第4四半期にケーブル加入者向け広告売り上げが5.6%減少」といった数字とともに、「NBCの人気トークショー『Tonight Show Starring Jimmy Fallon』の場合、視聴者の約7割がオンラインに流れてしまい、そのほとんどをマネタイズできていない」というNBCUniversal最高経営責任者(CEO)Steve Burkeのコメントも紹介されている。

 ここでの「オンライン」というのは専らYouTubeにある同番組のチャネルのこと(NBCサイトで公開されている動画にはしっかりCMが入っている)。チャンネル登録者が650万人以上もおり、再生回数が8桁(1000万回以上)に達する動画もたくさんある同チャネルが収入に結びついていないのは、YouTube=GoogleとNBCとの間で広告売り上げの分け前に関する合意に達していないため、とWSJは説明している。

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