年間推定1億ドル近い制作コストがかかるとされるメジャーなテレビ番組にとって、YouTubeはあくまでプロモーション(マーケティング)の手段にしかならないはずだが、会社全体が決して楽といえない状況ではそう悠長に構えているわけにもいかない。「Tonight Show」や「Saturday Night Live」のオリジナルコンテンツなどを含むウェブ専用の有料チャネルというのはある種の「苦肉の策」ともいえそうだ。
- 'Tonight Show's' NYC Move To Save NBC $20 Million in Tax Credits--The Hollywood Reporter
テレビ局の中には広告売り上げの比重が高いものと、消費者からの視聴料収入に軸足を置くものとがあり、後者に区分されるHBOなどは収入の8割以上が視聴料という話も見かけた。HBO Nowの投入にあたって「HBOの方からAppleに積極的に提携を働きかけていた」といった話もRe/codeでは報じられていたことから、従来のテレビ離れの影響がプレミアムチャネルとされるHBOあたりまで及んでいる可能性も感じられる。
- Apple's HBO Now Deal Has Been in the Works for a Year--Re/code
オンラインに流れる視聴者と「構造不況」に陥ったケーブルテレビ
HBO Nowが発表された翌日の3月10日には「ケーブルテレビの視聴率が昨年第3四半期には前年比10%低下、同第4四半期にも同9%低下した」「こうした流れは今年になっても止まらず、第1四半期の視聴率は前年比12%減に」といった記述を含む記事がWSJに出ていた。
この視聴率低下の主な要因とされているのが、Netflix、Amazon、Huluといった動画ストリーミング配信サービス(SVOD)勢の影響拡大で、Cabletelevision Advertising Bureau(CAB)という業界団体の内部では「視聴率低下の原因の約4割はSVODによるもの」といった可能性も取り沙汰されているという。
SVODの筆頭とされるNetflixの状況については、「契約者の視聴時間が1日あたり100分以上になっている」「昨年第4四半期の総放映=利用時間は、前年比30.6%増の56.4億時間まで増加」といった数字(BTIG Researchという調査会社のデータ)が引用されている。
この記事で特に目を惹くのは、「米国の(既存の)テレビ業界は長期の構造的な下降局面に入りつつある」というBernsteinアナリストの指摘だ。その原因については「広告費主体で運営される配信プラットフォームから、広告のない、もしくは広告の比重が少ないプラットフォームへと視聴者が流れている」との説明がある。
テレビ局側の使っている視聴率測定手法には、携帯通信端末経由で番組を観る視聴者のデータが捕捉できないなどの問題があるため、「消費者によるテレビのコンテンツ離れが進んでいるとは言い切れない」「これまでとは違った端末とサービスを利用して番組を観ているだけではないか」といったCAB関係者の見方も記されている。ただ、テレビ局が新たな収入源を確保しなくてはならず、その手がかりをウェブと携帯通信端末に求めようとしている状況自体にはほぼ間違いはないと思われる。
広告売り上げの比重が大きなテレビ局のなかには、視聴率低下、広告単価の減少を補うために、ひとつの番組枠に詰め込めるCMの数を増やす流れも目立っているという。下記のWSJ記事には「1時間枠で20分前後もCMが流れる」という例や「映画の本編を早回しして、新たな広告枠を作っている」という例なども記されている
また、AppleがウェブTVサービス投入にあたり、テレビ局などに対して「視聴データなどを提供する」といっている、という点も目を惹く。この話を報じたNYPostでは、Appleがぶら下げた「データ提供というニンジン(“data carrot”)」は「既存のケーブル事業者もNetflixやAmazonでもやっていないこと」と記しているが、ここで思い出されるのはやはりGoogleのこと――YouTubeをそろそろなんとか黒字化したいGoogleにも、そう簡単には真似できないことにも思われる。
(敬称略)