跳ね返ることで、そこに空のアイテムが並んでいるのではなく、リストの端であることが判る。そして、バネのような動きをすることで「柔らかい動き」の感触を与える。結果として、ユーザーはリストの端まで来ても違和感の少ないスムースな操作ができる。これらをユーザー側から捉えたのがUXである(ただし、この場合は「UI技法の効果」という言い方もできる)。
利用者はシステムやサービスをUIを介して使うので、UIはUXに大きな影響を与えるが、UIはUXの一部ではないし、UIだけでUXが決まるわけでもない。古い例だが、ウォークマンなどの携帯音楽プレーヤーは「電車などに乗りながら音楽を聞く」というUXをもたらした。
その後、iPodなどのハードディスクプレーヤーは、その上に「テープやディスクなどのメディアを入れ替えずに(さらには出かける前に持って行くコンテンツを選ばずに)聞き続ける」というUXを追加した(それが当たり前な世代の方々からすると、これらの「新体験」の何が凄かったのかはピンとこないだろうが)。これらはUIがもたらしたUXというより、小型化技術がもたらした(比較的大きな粒度での)UXと言えよう。
デザインとは何か
「UI/UXデザイン」という言葉の中で残りは「デザイン」である。デザインとは「設計」のことであり、「UIデザイン」といえば例えば、何をどう表示するか、どういう動きをしてどういう入力に対してどういう反応を返すか、などを設計することである。 最近はこうした解説が広まって誤解も減ってきているが、「見た目」や「装飾」の話だけではないことはまだまだ強調しておきたい。
「UXデザイン」は文字通りUXの設計なのだが、話は簡単ではない。上で述べた通り、UXは利用者側の、しかも内面も含めた話であるので、直接「設計」することができない部分が多いのだ。
スクロール技法など粒度が細かい部分であればまだ直接に近いところで設計ができるが、粒度が大きくなるほど間接的な要素が大きくなる。ユーザーにどういう感覚や体験を与えたいか(あるいは与えないようにしたいか)を考え(これも「設計」の一部である)、そこから逆算し、要求される仕様などを明確にし、UIデザインやプロダクトデザイン、そして場合によっては状況のデザインなどに落としていく必要がある。
注意すべきは、UXは必ずしも意図的に設計しきれるものではない、ということである。最近の話題で「ソニーのAIBOの葬式」というものがあったが、AIBOは一部のユーザーに、設計、企画した人々が想定した以上のエクスペリエンスを与えたのであろう。