企業の情報システムとしてクラウドを有効活用するために、最高情報責任者(CIO)がなすべきことは何か。ユニークな経歴を持つ米Amazon Web Services(AWS)幹部に興味深い話を聞くことができたので紹介したい。
AWSのユーザー経験を持つ幹部が示す7つのポイント
筆者の取材に応じるAWS Head of Enterprise StrategyのStephen Orban氏
AWS幹部の名は、Stephen Orban氏。2014年9月にAWSに入社し、「Head of Enterprise Strategy」の立場でエンタープライズ戦略を立案・推進する役目を担っている。
同氏はAWS入社以前、メディア大手のDOW JONESでCIOを務め、その前はBloombergでIT部門のプロジェクトリーダーも担ってきた。いずれもユーザーとしてAWSのクラウドサービスを有効活用してきた経験を持つユニークな経歴の持ち主である。
そんなOrban氏が、アマゾンデータサービスジャパンが6月2~3日に都内ホテルで開催した「AWS Summit Tokyo 2015」で講演を行うために来日し、筆者の個別取材にも応じた。取材のテーマは冒頭で述べたように、「企業がクラウドを有効活用するためにCIOは何をなすべきか」。同氏の経験を踏まえた話の中で、筆者が興味深く感じた点を取り上げたい。
CIOがなすべきこととして、Orban氏は次の7点を挙げた。まず1つ目は「経営層の支持を得ること」。この点で同氏は、CxOと呼ばれる経営層が重視する事項を挙げ、それぞれにクラウドが有効であることを示す必要があると指摘した。
CxOが重視する事項とは例えば、最高経営責任者(CEO)ならば「高い競争力」「コスト削減」、最高財務責任者(CFO)ならば「キャッシュフローの改善」「コスト削減」、最高マーケティング責任者(CMO)ならば「市場の変化への対応」「より多くの実験、より効果的な分析」といった具合だ。
2つ目は「スタッフの教育」。クラウドの有効活用に向けて、さまざまな観点でIT部門のスタッフをスキルアップさせる必要があり、CIOはその環境をきちんと整備する責務を担うという。3つ目は「実験の奨励」。この意図は、低コストでスピーディにいろいろなことを試せるクラウドの利点を生かすべきというものだ。
4つ目は「クラウドサービスプロバイダーのパートナーエコシステムを活用すること」。例えば、AWSのコンサルティングパートナーは日本国内だけでも100社を超えており、クラウド活用のノウハウも相当蓄積されつつある。それらを利用すればクラウドへの移行をスムーズに進められるとしている。
ハイブリッド利用をクラウド全面移行へのステップに
5つ目は「クラウド専任チームを設けること」。この意図は、クラウドの有効活用に向けてIT部門内に開発と運用の連携を図る「DevOps」チームを設け、ビジネスに貢献するアプリケーションの開発に注力できる体制づくりを行うというものだ。
6つ目は「ハイブリッド導入」。とりわけ、大手企業では既存のIT資産によるオンプレミス環境とAWSのようなクラウドサービスを連携させるハイブリッド利用からスタートするケースが少なくない。将来的にクラウドサービスへ全面移行することを踏まえて、ハイブリッドをそのステップとすることは有効な手段だと言う。
7つ目は「クラウドファースト」。まずクラウドの適用を考えるというAWSの代名詞ともいえる言葉だが、Orban氏は「特にスタートアップの企業やビジネスには有効だ」と説明した。
Orban氏によると、「CIOがなすべきこれら7つの取り組みは、それぞれ個別ではなく深く関連し合っている」と言う。そのうえで同氏は、「CIOはクラウドを有効活用することによって、IT部門で余裕ができたリソースをアプリケーション開発に振り向け、ビジネスに貢献していくことを強く意識してほしい」と訴えた。
Orban氏の話の中で筆者が最も印象に残ったのは、ハイブリッド利用をクラウドサービスへの全面移行のステップとして取り上げていたことだ。これまでAWSはハイブリッド利用をあまり声高に言ってこなかったイメージがあるが、「AWSではハイブリッド利用に向けたサービスも豊富に取りそろえている」と強調した。そこには、DOW JONESのCIOとしてハイブリッド利用からクラウドサービスへ全面移行を手掛けた同氏ならではのこだわりがあるように感じた。
実際、大手を中心とした企業で今もっともニーズが高いのはハイブリッド利用だ。そのユーザー経験を持つOrban氏がこれからAWSでどのような手腕を発揮するか、注目しておきたい。