再発防止に向けた5つのポイント--日本年金機構の個人情報漏えい

河野省二(ディアイティ)

2015-06-06 07:00

 日本年金機構が125万件の個人情報を流出させたということが6月1日に報告され、現在もマスコミ各社によってさまざまな情報が提供されています。この報告は報道関係者向けのものであり、被害者への報告については現在(6月5日執筆時)のところ明らかにされていません。

 今回の情報漏えい事故の大本の原因はメール経由のウイルス感染であり、感染したPCを利用した不正アクセスであると報じられています。攻撃に使用されたウイルスが推測でき、再発防止の取り組みができるようになりました。しかし、現在検討している再発防止策は適切なのでしょうか。

 適切な策を計画、実行するためには、事故の原因を明確にする必要があります。残念ながら、現在のところ日本年金機構の事故では再発防止対策を明確に設定できるような情報は集められていないと考えます。

 今回は日本年金機構の事故対応を例にしながら、中小企業でも実施できる事故の対応と再発防止のためにできる「組織の学習」について解説します。また、これを通じて同様のトラブルを発生させないように対策を計画してみてください。

事故が起きたらまずは封じ込めから

 事故が発生した際に実施すべきなのは「封じ込め」と「被害状況の把握」です。これは事故の損失を最小限にすること(極小化といいます)ために実施します。損失がいつまでも続けば、事業継続にも影響を与えます。ですから、損失を確定するためにも封じ込めなどを実施しなければいけません。


 日本年金機構の報告書によれば、封じ込めの一環として「感染したPCの隔離」と「全拠点でのインターネット接続の遮断」を実施しています。しかし、これが実行されたのは2度目の感染時でした。つまり、最初の事故では大きなトラブルに発展するとは考えていなかったということなのかもしれません。

ポイント1
ウイルス感染事故が発生した場合には、PCの隔離だけでは足りない
あらかじめ用意したチェックリストを活用して、影響を検討すること

 一般的にウイルス感染したらPCをネットワークから外して、ウイルスを除去することとしています。しかし、これは間違いです。ネットワークから外すのは良いかもしれませんが、そのPCは再発防止のための情報収集の源になる重要なソースです。このPCのデータを消去してしまえば、再発防止を行うことができなくなってしまう可能性があります。

 JALのゼロデイ攻撃の際もそうでしたが、PCからの情報収集を怠ったがばかりにネットワークデータからの推測しかできず、正確な対応ができなくなってしまいました。

 また、そのPCを起点としてなんらかの被害が発生しているはずなので、その範囲を特定するためにも、周辺調査の必要があります。PCがウイルスに感染した際にどのような影響があるのか。

 例えば、そのPCからアクセスすることのできるサーバへのアクセスがなかったか、そのPCからファイル添付のあるメールが送られていないかなど、ウイルスの挙動を考慮して調査をしなければなりません。

 調査のためのチェックリストを作っておけばこれらの対応を忘れずに実行できますし、対外的にも適切な対応をしたことを説明することができます。

正確に報告することも損失軽減の1つ

 ベネッセの事故の損失は200億円という報道があります。これは初期対応が悪かったことで損失を増やしてしまっただけで、最初の報告や会見を適切に実施していれば、費用は抑えられたでしょう。

 被害者や報道関係者が知りたい情報を提供できなければ、新たな要望に応えなければならないこともあります。そのために新たに調査をすれば、その費用が計上されます。

 日本年金機構の事故では漏えいした情報項目について、最大で「基礎年金番号、氏名、生年月日、住所」であることが報告されています。これによって二次被害の可能性について示唆することができていますが、それがどのような影響になるのかが明確にされていません。

 国民には基礎年金番号がシステム上どのように使われているかがわからないために影響を想像することができないのです。もう少し具体的な報告をしなければ、電話などでの対応が増え、そこで処理できない部分はネット上での情報交換につながり、正確な情報を伝えることができないなど、いわゆる炎上につながる可能性があります。

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