連載初回で述べた通り、ユーザーインターフェース(User Interface:UI)はユーザー体験(User eXperience:UX)に大きな影響を与えるが、UXの一部ではないし、UIだけでUXが決まるわけでもない。
また、UXは利用者側の、しかも内面も含めた話であるので、直接「デザイン」することができない部分が多い。「UXデザイン」と言われていることも、多くの場合、やっていることは「UXを考慮したUIデザイン」であり、やるべきことは「UXを『きちんと』考慮した UIデザイン」である。
ユーザーに提示する情報の1つ1つのレイアウトや形式も、入力に対するフィードバックや画面の遷移のしかたなども、それぞれが細かいUXを形成し、それが積もって、アプリケーションやサービス全体のUXとなる。
積もるといっても、単純に細かいUXの和が粒度の大きめのUXになるわけではない。
個々のUXの間から生まれるUXや、積もることによって顕(あらわ)になるUXもあるし、大きな粒度からは目立たなくなるものもある。そして、個々の部分では問題がなくとも、組み合わせると良くないUXを生じることもある。今回はUXを考慮したデザインを設計する際に心掛けるべき点などを論じていく。
スタートライン
UXを考慮したデザインをするに当たってまず考えるべきことは、「今からサービスやアプリケーションを使おうとやってきたユーザーはどういう状態か」ということである(商用のサービスなどであれば「使おうとやってきて」もらうためのことなども考える必要があるが、ここではおいておく)。
前回は「システムの状態」の話をしたが、ユーザー側にも「状態」といえるものがある。
- システムについての前提知識はどれくらいあるか
- いつも使うのか、たまに使うのか、一回しか使わないのか
- 操作には馴れているか
- 入力を求められる情報は持っているか
- 必要な情報は判らないけどとりあえず起動・アクセスしてみたのか
などのようなことである。
企業のウェブサイトなどでありがちな失敗例が、広告要素や「おもしろさ」「見た目のインパクト」などを前面に押し出し過ぎて、ユーザーが何のためにそこへ来るのかを忘れているものである。いくら動画やエフェクトで「素敵なイメージ」を演出をしても、それがユーザーがそこへ来た目的からずれていると、悪いUXを生じかねない。
いろいろなユーザーがいろいろな状況でアクセスするウェブサイトやサービス、アプリケーションは、それだけ、さまざまなユーザーの状況を想定する必要がある。