前編では、ユーザーインターフェース(User Interface:UI)を設計する際の定量的な評価手法について述べた。後編では定性評価やUIが「悪い例」から、学ぶ手法、ユーザー体験(User eXperience:UX)の評価手法について解説する。
定性的評価
「測る」のではない、定性的な評価にも静的なものと動的なものが考えられる。
静的な評価では、これまでの連載で述べてきたような「レイアウトと中身の情報の関連性が合致しているか」「状態が判りやすいか」「一貫性が取れているか」「無駄に紛らわしい部分はないか」などをチェックする。
動的な評価は、これまでも繰り返し強調してきた「実際に使ってもらって観察する」ことや、その延長が主たる方法である。
身近な知人などに声を掛けてカジュアルに「使ってもらって観察」するだけでも充分に役に立つが、よりフォーマルにするならば、できるだけ環境を整え、条件をそろえる必要がある。マジックミラーを備えた専用の部屋で、被験者から観察者が見えない(被験者を邪魔しない)状態で実験することもある。
ユーザーが一連の操作の際、何をどう考えてそういう手順を取ったかなどユーザーの内面を窺い知るための方法として、思考発話法 (think aloud法)と呼ばれるものがある。これはユーザーに、何を考えて一つ一つの操作を行っているかを話しながら指示されたタスクを行ってもらうという手法である。
これもうまく使えばとても有用な知見が得られるが、やはり注意すべき点が多々ある。最重要なのは、ほとんどのユーザーは「思考を話しながら操作する」ことには馴れておらず(難しく感じる人も多いであろう)、適切な発話が得られるとは限らないということである。
前回、「まず自分がユーザーだった場合を考えるべし、それも意外と難しい」ということを述べたが、UIやUXの設計者ではない、一般のユーザーであれば「操作などに際し、自分が何を考えてそうしているか」を意識することはさらに難しい。また、それを意識することが操作の邪魔をするかもしれない。
「聞き方」で答えが変わってしまう
「思考発話法」では被験者が自発的に発話するのが理想であり、実験者はできる限り話しかけたりしないほうがよい。話しかけることで、被験者の発話内容に多かれ少なかれ影響を与えてしまうからである。
たとえば「ボタンに書かれている字が読みづらいですか」と聞くと、その瞬間に被験者はボタンの字に注意を向けてしまう。とはいえ前述のように、多くのユーザーはそうした発話に慣れていないので、実験者が被験者に発話を促す簡単な問いかけをときおり差し挟むほうが多くの結果を得られる可能性が高い。
「簡潔な聞き方をする」「答えを誘導するような聞き方をしない」などを心掛け、最小限で有効な訊き方を練習する必要がある。
「聞き方」に注意する必要があるのは、インタビューやアンケートを行う場合でも同様である。特に、実験などを行ってから時間が経過するほど、聞きかたが回答に影響を与えやすくなると思ったほうがよい。人間の記憶というのは思っている以上に曖昧であり、しかも細かな改ざんや創作も起こりやすいのである。