670億ドルで合意されたDellのEMC買収は、大規模かつ複雑という言葉だけでは片付けられない波及効果を引き起こすはずだ。Dellはこの買収を完了させるために必要となる現金のほとんどを借り入れでまかなう予定だ。
この買収の条件としてDellはEMCの現在の株主に対して、VMwareを対象とした子会社連動株式を発行する必要がある。その結果、Dellは株式の40%を所有し、VMwareの支配的議決権を保持し続けることになる。このため顧客や市場は、DellがVMwareの主導権を握ることで引き起こされる長期的な影響を不安視している。
筆者はVMwareに対して、Dellとの新たな関係によって顧客にどのようなメリットがもたらされるのかについて質問した。VMwareの広報担当者からは「VMwareは、クラウド関連やモバイル関連、デスクトップ関連といった製品とともに、ソフトウェア定義コンピューティングやネットワーキング、ストレージといったソリューションを通じ、顧客に価値を提供するという自社の使命を遂行し続ける。その点に変わりはない」という回答が返ってきた。
オープンソースのコンサルタントコミュニティーWikibonの主席調査コントリビューターであるStu Miniman氏は「全体的に見た場合、この買収によってVMwareにただちに影響が出るわけではない」とコメントしている。筆者もこの意見に同意する。しかし、それはあくまで短期での話だ。そして筆者の予想では、VMwareのエコシステムにおける以下の3つの領域に影響が出てくる可能性がある。
ソフトウェア定義コンピューティング
VMwareは常に、ハイパーバイザという枠を超えた多様化を試みてきている。NutanixやScale Computingといった競合他社は、Kernel Virtual Machine(KVM)といったオープンソースのソリューションを実現し始めている。NutanixとScale Computingはいずれも、KVM上で動作する仮想マシン(VM)の管理ソリューションを提供している。そして顧客は、KVM上でのアプリケーションの仮想化は実用に耐えるものであることを理解している。同様に、米ZDNetのLarry Dignan記者も述べているように、Microsoftも「Hyper-V」によってさらなる選択肢を提示している。一方VMwareは、「vSphere Distributed Resource Scheduler」(DRS)や「VMware HA」といったエンタープライズ向けの製品によって競争上の優位を保ち続けてきている。
VMwareとDellは、ハイパーバイザに関して直接競合してはいないものの、VMwareの競合企業とDellとの関係は無視できない。最も分かりやすい例はNutanixとの関係だ。DellはNutanixのハイパーコンバージドインフラ(HCI)ソリューションを自社ブランドで販売している。一方、VMwareはNutanixの製品と直接競合する「EVO:RAIL」を販売している。Dellは以前からEVO:RAILとNutanixのHCIソリューションを販売しているが、今後はNutanixよりもEVO:RAILの販売に力を入れていく、あるいはNutanixとの契約を更新しない可能性があるだろう。