ただここでの問題は、最初のZenマイクロアーキテクチャ搭載プロセッサとなる開発コード名「Summit Ridge」が2016年10月まで市場に投入されないかもしれないという点にある。その時点で既にIntelは、ウルトラブックをはじめとするポータブルデバイス向けに「Skylake」の高性能版である「Cannonlake」を出荷しているはずだ。Intelに追いつくだけではAMDに勝ち目はない。Zenは大きなメリットを前面に押し出す必要があるが、それは簡単なことではない。
AMDは2016年10月までに財務状況をさらに悪化させ、買収の標的となる可能性もある。その際に出てくる疑問は、どの企業が名乗りを上げるのかだろう。そういった場合、Qualcommやサムスン、MediaTekが候補として考えられるが、Appleはどうだろうか?
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AMDが買収されるとなった場合、同社とIntelの間に結ばれている合意が破棄されるかもしれないという難しい問題がある。しかしAppleであれば、事前にIntelと新たな合意を結び、x86プロセッサの製造権を維持できるかもしれない。
そしてAMDを傘下に収めたAppleは、Zenマイクロアーキテクチャによるコア設計と、AMDのATIグラフィックスコアを用いて「Mac」用のカスタムSoCチップを設計し、IntelやGLOBALFOUNDRIES(AMDから分社した企業だ)、TSMCにその製造を外注できるようになるはずだ。
要するに、Appleは過去にARMプロセッサで行ったことを繰り返すわけだ。Appleは定評あるARMチップ企業P.A. Semi(Palo Alto Semiconductor)を買収し、「iPhone」や「iPad」向けとしてARMベースの独自SoCを設計し、サムスンやTSMCに製造を外注している。
(さらに偶然にも、Zenの開発を率いるためにAMDに戻ってきたJim Keller氏は、P.A. Semi時代にApple向けのARMベースのSoCを設計していた人物でもある。もっとも同氏は2015年9月にAMDを退社している)
AppleにとってAMDを買収する価値があるかどうかは、Macの販売量が相対的に低下しているという状況を考えると、また別の話になる。もしもAppleがMacを利益率の高いビジネスだと捉えていればだが、その答えは否定的なものとなるだろう。しかし、カスタム設計された安価なSoCを使ってMacの市場を拡大するというのは魅力的な選択肢かもしれない。そしてあくまでも可能性の話だが、同じSoC上にIntelのx86互換プロセッサとARMコアを実装するという、より魅力的な選択肢もあるかもしれない。