UNIXシステム分野で長年にわたって緊密に協業してきた富士通とOracle。ただ、ここ数年は微妙な空気も流れていた。それがここにきて変化したようだ。
日本オラクルの新システム発表会見に富士通幹部が登壇
日本オラクルが12月9日、世界最速のプロセッサと銘打った「SPARC M7」を搭載したシステム製品群を国内で提供開始すると発表した。同時にSPARCシステムのUNIX OSであるSolarisも最新版「Oracle Solaris 11.3」を提供する。最新のSPARC/Solarisは、米Oracleが5年前に買収したSun Microsystemsのテクノロジの流れを汲むものである。
今回の新しいプロセッサとシステム製品群は、米Oracleが10月末に米サンフランシスコで開催した「Oracle OpenWorld 2015」で、新たなハードウェア戦略「コンバージドインフラストラクチャ」とともに発表したものだ。
日本オラクルの杉原博茂社長兼CEOとともに日本での発表会見に臨んだ米Oracleコンバージドインフラストラクチャ戦略担当のDavid DonatelliエグゼクティブバイスプレジデントはSPARC M7搭載システムについて「オラクルのソフトウェアとクラウドのために開発したプロセッサを搭載したシステムだ」と強調した。

会見に臨む日本オラクルの日本オラクルの杉原博茂社長兼CEO(左)と米Oracleコンバージドインフラストラクチャ戦略担当のDavid Donatelliエグゼクティブバイスプレジデント
新たな戦略や製品の詳しい内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは新システムにおけるパートナー展開、とりわけ富士通との関係に注目したい。発表会見では新システムの日本での販売展開にあたって、発表時点で27社のパートナーから賛同を得られていることが紹介され、その中から伊藤忠テクノソリューションズと富士通の幹部が登壇して賛同コメントを寄せた。
富士通からは野田敬人 執行役員アドバンストシステム開発本部長が登壇し、「当社はSPARC/Solarisシステムについて、Sunの時代からプロセッサを製造し、共同で開発するなど、特別な協業関係を築いてきた。今後もオラクルと協業を深めて、日本だけでなくグローバルにSPARC/Solarisシステムを一層広げていきたい」と語った。
富士通が新システムを取り扱う背景には何があるのか
長年にわたって密接に協業してきた両社だけに、こうしたやりとりは当然のように見えるが、実はOracleがここ3年ほどの間に新製品として提供してきたSPARCの「M5」および「M6」プロセッサを搭載したシステムを、富士通は基本的に取り扱ってこなかった経緯がある。まさしくここ3年ほどは、両社の協業関係に微妙な空気が流れていたのである。
何があったのか。それは、富士通が2013年1月にハイエンド向けの「SPARC M10」というSPARC/Solarisシステムの新機種を発表したことから始まる。従来、富士通はSPARC/Solarisシステムを、Sunの時代から国内でOEM販売してきた。一方で、Sunを買収したOracleとはグローバルアライアンスパートナーシップを組み、SPARC M10についてはOracleが販売パートナーとなって日本以外で営業活動を推進する形をとっている。
ただ、このSPARC M10をめぐって、富士通とOracleの間に思惑の違いがあったようだ。というのは、富士通は当初M10を「SPARC Mシリーズ」のハイエンド機としてOracleとの協業を象徴する製品に位置付けていたようだが、OracleはM10の製品名を「Fujitsu M10」とし、富士通が開発した製品の販売パートナーに徹する姿勢を貫いているようだ。
そしてOracleは富士通がSPARC M10を投入して間もなくSPARC M5搭載システムを発表し、SPARC Mシリーズのハイエンド機と位置付けた。その後のM6、そして今回のM7を搭載したシステムはその後継機となる。つまり、SPARC M10とバッティングする形になっているのだ。
こうした経緯から、富士通はM5およびM6を搭載したシステムの取り扱いを見送ってきたとみられるが、今回M7搭載システムを、かつてのようなOEMではなく、Oracle製品として販売することに決めたようだ。これによって、富士通は国内でSPARC M10とM7搭載システムを併売する形になる。
おそらくOracleとの間でSPARC M10のグローバル展開の強化と合わせた新たな密約が成立したのではないかとみられるが、現時点で真相は分からない。が、両社の協業関係に新たな変化が起きたことだけは確かだ。
会見の質疑応答はオラクル側がすべて応じたので、杉原氏とDonatelli氏に「富士通は本当にM7搭載システムを積極的に取り扱うのか」「富士通との密接な協業関係は今後も続くのか」と聞いたところ、「積極的に取り扱っていただけるとご理解いただきたい」(杉原氏)、「密接な協業関係に変わりはない」(Donatelli氏)とのことだった。愚問ではあるが書き添えておく。