2002年、ニューヨーカー誌のライターAdam Gopnik氏は、3歳の娘の架空の友達Charlie Ravioliに関する記事を執筆した。その友達は常に忙しく、あまり娘と遊んでくれなかったという。これは、マンハッタンに住むGopnik夫妻の忙しさを反映したもので、Gopnik氏は多忙の原因がどこにあるのかを考えていた。その原因の1つは、電報からメール、そしてチャットへと発展していったテクノロジにあるとGopnik氏は述べており、「不完全なままの内容を配信することを前提とした、新たなコミュニケーション手法が誕生したためだ」としている。私たちは日々、「メールします」とチャットで伝え、「電話します」とメールで伝え、電話でミーティングを設定している。その後チャットでミーティングのキャンセルを連絡をし、メールで再度スケジュールを組み直しているのだ。Charlie Ravioliがアシスタントを雇ってGopnik氏の娘に忙しいと伝えなくてはならなくなったのも無理はない。
Reclaiming Conversation: The Power of Talk in a Digital Age ● 著者:Sherry Turkle ● 出版社:Penguin Press ● 448ページ ● ISBN: 978-1-59420-555-2 ● 16.49ポンド / 27.95ドル
現在、Gopnik氏の娘は16歳になっているはずで、常にデジタル環境にありながら成長した第1世代の人間といえる。この世代に対して大きな懸念を抱いているのが、マサチューセッツ工科大学 サイエンス&テクノロジ社会学教授のSherry Turkle氏だ。Turkle氏は、著書「Reclaiming Conversation: The Power of Talk in a Digital Age」(「会話を取り戻す:デジタル世代における会話の力」の意)にて、デジタル環境で育った世代の子どもたちが、電話による会話を感情的すぎるとして避けており、何かおかしなことを言っていないか確認し編集できるチャットやメールなどの手法を好んで利用していると指摘している。Turkle氏がインタビューした子どもたちは、間違いを犯さないよう気をつけることに必死になっているというのだ。特に、両親や先生、そしてメディアなどがこぞって、何か間違いを犯してしまうと希望の大学に入学することはできず、その後つまらない仕事と貧乏生活が待っているとやかましく言い聞かせてきたのだからなおさらだ。
この事実を心配した学校からの調査依頼を受けたTurkle氏はさらに、こうした世代の子どもたちがしっかりと共感する気持ちを持ちあわせていない傾向にあることを明らかにした。それは、リアルタイムで顔を合わせる会話をあまりしていないためだという。チャットやメールの場合、文字は見るが、ややこしい人間の反応と関わる必要がないからだ。
何が失われたのか
同書では、こうした環境にいるわれわれが何を失ったのかについて議論されている。ディナータイムはいまや、いつ携帯電話を確認していいのかを決める試練の場となっているのだ。Turkle氏が調査したチャット環境で育った10代の子どもたちは、ちゃんとした会話をすることを恐れ、面倒なことだと考えている。いつ終わるかも、何が起こるかもわからないためだ。同書では、プライバシーに関する議論と、Snowden氏による秘密暴露以降に見解が変わったこと、そしてロボットやスマートおもちゃなどの最新技術が与える影響についても書かれている。
Turkle氏は、デジタルコミュニケーションが人間の成長に与える影響について、ここ数十年調査を続けているが、同氏の分析は少し子どもにフォーカスしすぎでもある。実際子どもは、大人の行動を見て学習しているに過ぎないのだ。Turkle氏の調査では、夕食の場においても両親の気を引くことができない子どもたちが不満を感じているとしているが、一方でその両親は、さまざまな邪魔が入ったり自らも他人を邪魔したりしながら非効率なマルチタスクを課せられつつミーティングに出席しているのだ。上院議員のJohn McCain氏などは、シリア危機の議論が行われている議会の最中に、iPhoneでポーカーゲームをしていたではないか。
Turkle氏が提案する解決法は次の通りだ。会話を取り戻すこと。そして、何にも邪魔されることなく、自分の考え以外何もない状態で1人きりになる方法を再度学ぶこと、さらにはメールやチャットを常に確認している状況から脱却することだと。ただし、これは子どもたちだけでなく、大人にも当てはまることである。Turkle氏は、まだぎりぎり修正の余地はあると最後に締めくくっている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。