岡部氏によると、テンプレートによるPBCS導入は経営層、予算の主管部門である経営企画や経理、実際に予算を編成する事業部門の3つにメリットがあるという。
経営層のメリットとしては、テンプレートにより成行予算の修正からスタートすることで予算編成の時間を短縮でき、部門からのデータ収集の効率改善などにより、業務報告が短期間になる。例えば業務報告は四半期で行いながら予実は月次で見ていくといった取り組みが可能になる。テンプレートにはKPIを事前設定しているが、これについても顧客側で変更や追加が可能だ。
ジールの代表取締役社長、岡部貴弘氏
予算主管部門側のメリットとしては、これまで予算編成業務プロセスが確立されておらず、「属人的だった作業をシステム化する」ことが可能になった。ジールのテンプレートの流れに沿って業務を改善しましょうという提案が受け入れられているという。
操作性もある。中でも、HyperionとExcelとの親和性は長所と認識されているようだ。Excelのアドイン機能「Smart View」を利用して、フロントエンドとしてExcelを使って入力したものがHyperionのクラウドにアップロードされる。また、PBCSにあるデータの参照もExcelから可能であり、「Excelが分かればシステムを意識することなくデータの分析ができる」という。データはあくまでのHyperionのキューブなので、データが拡散することはない。ジールはマスタメンテナンス作業のためのExcelシートも用意する。
Excelのアドイン機能「Smart View」
気になるオンプレとクラウドの収益性については、クラウドに利があるとみているようだ。これまでのオンプレミスでは、ほぼ専属で技術者をつけることになり、導入期間が想定より伸びると原価が増えるというリスクがあった。そのため提示価格は高額になる。だがテンプレートベースのクラウドでは専任者がつくことはなく、同時に稼働させることもできる。
導入期間が延びてもコストの圧迫はあまりない上、訪問回数も減る。これらのメリットを挙げながら「こちらにシフトしていきたい」と岡部氏。今回の小売りと流通向けが好調だったことを受け、2016年春には製造業向けのテンプレートの販売も開始する予定だ。
市場の潜在性もある。「短期にコストをかけずに導入できるサービスがあれば、PBCSはもっとミッドレンジのお客様に導入いただけるのではないか」とテンプレートビジネスへの投資を決定した理由を説明した。「テンプレートに合わないお客様もいるが、ベースがあるのでテンプレートのフィット&ギャップを見ながらアジャイルに導入できる」――このような速度は顧客が求めているものでもある。
岡部氏がもう一つ実感しているのが、ユーザー主導というBIのトレンドだ。IT部門が主導でレポートを提供するエンタープライズBIに対し、ここ数年、IT主導よりもユーザー部門主導のBIを実際の業務で活用するという事例が増えているという。
ジールは成功するBIとして導入後の活用にフォーカスしているが、ユーザー部門主導のBIはこの問題の解決にもつながりそうだ。なお、同社はこのようなBI活用支援を差別化とするが、今回のPBCSテンプレートでもオプションとして提供する。
PBCSのテンプレートは現在、上記のジールの小売と流通向けのほか、製造業や流通業などの業種向け、全業種共通の業務向けと合計15種がある。スタートから6カ月を経たところで、オラクルとパートナーによるエコシステムがしっかり回っていることを実感しているとのこと。
桐生氏は、「テンプレートを作ったが売れないというケースは残念ながらよくあるが、今回は引き合いが非常に強く、そのようなことはない。狙った通りの結果が得られている」と満足顔だ。今後拡大の方向にはあるが、単に数を増やすのではない。「エコシステムが継続して回る形でテンプレートを拡充し、細分化して個々の顧客の要件に合致するようになっていけば」と慎重に育てていく意向をみせた。
引き合いが強い背景には、「競合らしい競合が国内にはないから」と桐生氏は市場を分析するが、もう一つの要素として隠れたニーズも強調した。もともとこの分野は、IT投資では優先順位が高くなかった分野だ。「あったらいいがROIが見えにくかったために投資が後回しになっていた。だがクラウド化とテンプレートによりすぐに実感いただける」と桐生氏。競合は他社の製品というよりも「バラバラに分断されたExcelと思っている」とのことだ。
利用用途についても幅を広げていく。現在は予算管理が中心だが、プランニングはITの予算管理、営業のフォーキャスト管理などさまざまなプランニングがあるとし、PBCSを利用する業務領域そのものも広げていく狙いだ。