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研究現場から見たAI

深層学習とニューラルネットワークの仕組み--AIブームを冷静に論じる - (page 5)

松田雄馬

2016-05-27 07:00

「人工知能」の「学習」は人間のそれと同じなのか

 ここまでの流れをおさらいすることで、ニューラルネットワークによる学習が、人間のそれとどう関連するのかということを、見直してみたい。

  1. 神経細胞(ニューロン)の生理学的な研究から、神経細胞は、ON/OFFを繰り返す「電球」のような性質を持つということがわかった
  2. 神経細胞(ニューロン)の性質から着想を得て、「学習」する「人工ニューラルネットワーク」が「発明」された。この「ニューラルネットワーク」は、心理学的な知見から着想を得ているが、あくまで人工的に作られたもので、脳の行っている「学習」の仕組みと同じであるかどうかはわからない
  3. 「ニューラルネットワーク」は、コンピュータの進化により、高精度な「学習」ができるまでに進化した。ここでの「学習」は、基本的には、人間が与えたデータをもとに「分類」ができることを指しており、コンピュータが、人間の手を離れて予期せぬ成長を遂げたり、暴走を始めたりということとは関連性がない

 現在、話題が集まっているニューラルネットワークは、(3)に記した、人間が与えたデータをもとに分類するものがほとんどである。このため、現在は、ニューラルネットワークの分類の仕組みを囲碁や将棋に応用して勝率を上げるなど、”分類の仕組みを応用する研究”に、特にビジネス面での注目が集まっている。

 しかしながら、分類を行うニューラルネットワークは、上記したように、数千数万という膨大なデータがないとリンゴやミカンを学習できないため、一度口にしただけでその形や色や味や触覚に至るまで、すべてを「記憶」して思い出すことができる人間の「学習」の仕組みとは、根本的に異なるようにも思える。

 実際、こうしたニューラルネットワークだけでなく、「身体による経験がないと学習は進まない」という実験結果がいくつも報告されているなど、人間の学習の仕組みには、まだまだ未知の部分が多く残されており、まだ何もわかっていないと言っても言い過ぎではない領域である。

 「身体による学習」という観点で、有名な実験を紹介したい。1963年のHeld & Hein(米国の心理学者)による通称「ゴンドラ猫」と言われる実験である。この実験では、下図のように、(生後2週間の)2匹の猫がつながれ、縦縞の実験室に入れられる。片方の猫は、自分の意志で自由に身体を動かせ、もう片方の猫はゴンドラに入れられた状態である。

 2匹の猫は、点対称の動きをするので、基本的に「同じもの」を見ることができるはずである。しかしながら、こうした環境で育った二匹のうち、自分で身体を動かしていたほうの猫は、モノとの遠近感覚などの正常な「認識能力」を身に付けた一方で、もう一方のゴンドラに入れられた方のネコは、正常な空間認識能力が形成できなかった。

 モノにぶつかったり避けるべき所を避なかったり、エサなどへのリーチも、適切に行うことができなかったと報告されている。このように、身体の動きを通してでなければ「認識」はうまくいかないというのは、心理学的にはよく知られている。


(Held, R. and Hein, A. (1963), Movement-Produced Stimulation in the Development of Visually Guided Behavior. Journal of Comparative and Physiological Psychology. 56(5). pp. 872–876)

 そう考えると、ニューラルネットワークは、「自分でさまざまなものを学習する人工知能」というよりは、「目的や用途を人間が適切に与えてやってはじめて優れた性能を発揮する手のかかる道具」と考えたほうがわかりやすい。

 そして、道具であるならば、それが「人間の仕事を奪うのではないか」という懸念をするよりも「この道具をどのように使えば、新しい仕事を作り出し、お金を生み出すことができるのか」ということを考えたほうが健全なのではないかと、個人的には思っている。

松田 雄馬(工学博士)
2007年3月、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了後、2007年4月、日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、東北大学と共同で、脳型コンピュータの基礎研究プロジェクトを立ち上げる。
2015年6月、情報処理学会DICOMOにて同研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。
2015年9月、東北大学にて博士号(工学)を取得。
2016年1月、日本電気株式会社(NEC)を退職し、独立。
現在、ラオスをはじめとする発展途上地域における情報技術の現状を調査するとともに、そうした地域ならではの新事業を創出する企業の設立準備を実施している。

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