3月17日。都内で開かれた長期ビジョンと次期中期経営計画説明会の会場で、ひな壇に座ったセイコーエプソン代表取締役社長の碓井稔氏は、いつものポーカーフェイスを崩さないままだ。PowerPointを使った説明も淡々と進行させてみせた。だが、手元に台本がなくなる質疑応答になると、一転して強い口調での発言が増えてきた。
「ここで掲げた計画はやり切る、またやり切る自信がある」と強い口調で語った後も、競合他社の具体名を挙げながら、「これまでにも他社に負けてきた認識はない。自らのモノづくり力によって、他社を凌駕できる」と言い切るなど、熱い言葉が口をついて出た。
セイコーエプソンは、2015年度を最終年度とする7年間の長期ビジョン「SE15」を完了。2016年度から10年間の長期ビジョン「Epson 25」をスタートさせた。
Epson 25では、2025年度に売上高1兆7000億円、事業利益2000億円、売上高経常利益率(Rate Of Sales:ROS)12%、株主資本利益率(Return On Equity:ROE)15%を目指すことになる。

セイコーエプソン 代表取締役社長 碓井稔氏
そして、それに向けたアクションプランとして、3つに分けた中期経営計画を策定。その第1ステップとなる「Epson 25 第1期中期経営計画」は、最終年度となる2018年度に売上高で1兆2000億円、事業利益960億円、ROSは8%、ROEでは継続的に10%以上を目指すとした。
「SE15は、技術を基軸とした垂直統合型のビジネスモデルに変革し、収益性が高い構造へと変えたことが最大の成果。そして、その成果をベースに推進することになるEpson 25では、当社が社会になくてはならない会社になることを目指す」と碓井氏はEpson 25の方向性を語る。
振り返れば、SE15はセイコーエプソンの体質を大きく変えた。それは、競合他社の関係者からも評価されている。「以前は、経営に粗さも目立っていたが、それがなくなった。技術力を生かす体質、そして粘り強さが生まれてきている」との声が上がる。
実際、SE15をスタートする直前の2008年度のセイコーエプソンは、1113億円という創業以来最悪の赤字を計上。SE15は、まさにどん底からのスタートであった。
だが、SE15によって、エプソンは大きく生まれ変わった。過去最低を記録した2008年度から6年後となる2014年度連結業績(2013年度から国際会計基準)は、売上高が1兆863億円、営業利益が1313億円、税引前利益が1325億円、当期利益は1127億円となり、営業利益、税引前利益、当期利益では、過去最高の利益を達成してみせたのだ。
オフィス向けプリンタにインクジェット
では、SE15でセイコーエプソンは何を行ったのか。
2008年に代表取締役社長に就任した碓井氏は、SE15の策定で「エプソンは、省・小・精の技術を究め極めて、プラットフォーム化し、強い事業の集合体となり、世界中のあらゆるお客さま感動していただける製品、サービスを創り、作り、お届けする」ことを掲げ、これを実現する具体的方針として、「強みを活かせる分野に集中し勝ち残る」「集中する事業は事業基盤を徹底的に強くする」「保有する技術や販売の資産から、新たな製品と事業を生み出す」という3点を掲げた。