「1億倍速いコンピュータ」に利用--量子アニーリング理論の可能性(1) - (page 3)

吉澤亨史 山田竜司 (編集部) 2016年08月25日 06時30分

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--量子アニーリングマシンと現在のコンピュータとの違いは。

大関氏 現在のコンピュータはプログラム内蔵方式のデジタルコンピュータであるノイマン型で、CPUにより演算処理しますが、量子アニーリングマシンは物理学の特性を生かして計算するコンピュータです。

 確かに、今あるコンピュータで問題に特化したアルゴリズムを作っている人たちから、なぜ量子アニーリングが必要なのかという声があります。でも、彼らは特別な問題に対する最高のパフォーマンスを出す方法を知っているにすぎないので、どんな問題にも臨機応変に使えるものが求められたらそれに応える術を持っていません。その意味での万能性と速さがまったく違うわけです。

 また、量子アニーリングのアルゴリズムそのものが速いと思われがちですが、計算機科学的な、計算が速いか遅いかをきちんと研究している人たちからしたら、遅いものです。ですが現在のデジタルコンピュータでは計算の処理のために0と1のデジタル信号の処理そのもの以外にもいろいろな処理が必要なため、計算時間が意外とかかっています。

 それに対して、量子アニーリングを実装したD-Waveでは、余計な処理はほとんどありません。超伝導のリングの中に電子がまさに回っていて、その電流の向きで上か下か、あるかないかなどのデジタルな信号をそのまま表します。しかも量子力学の不思議な力である0と1の両者を重ね合わせた状態で保持します。ですから計算するときには、そのまま、そのデジタル信号に直接影響を与える。無駄なものがないわけです。計算に特化しているということですね。


 コンピュータの歴史で言えば、はじめにCPUがあってパーソナルコンピュータにつながり、グラフィック処理を目的としたGPUが出てきました。そしてGPUはベクトルと行列の演算にも有効だとわかってGPU時代になり、とニーズに応えた専用化が進んでいます。FPGA(Field Programmable Gate Array:内部の回路構成を書き換えることができるLSI)もしかりですね。そして今、世の中は最適化専用のコンピュータを求めていて、たまたま研究が実りつつあった量子アニーリングが時代に合っていたというわけでしょう。

 最近、Googleが機械学習ライブラリ「TensorFlow」向けにカスタマイズしたチップ「Tensor Processing Unit」(TPU)を作りましたが、要するに目的がはっきりしてきて、それに応じたコンピュータが必要になってきたわけです。

 そして今度は、センシング技術、ネットワーク技術の発達でIoT社会が目前になったので、センサ情報に基づいて瞬時に判断が求められるようになりました。もうCPUやGPU、特別なアルゴリズムを実行することでも間に合わなくなる。そう言った時代を迎えたときに、量子アニーリングマシンで瞬時に最適化問題の解を出力できるということで、D-Waveが注目されているわけです。

田中氏 大関さんに同意ですが、いろいろなタイプの組み合わせ最適化問題を解くことは難しくて、それをある意味汎用的に可能にしたというところに、量子アニーリングの価値があるということです。今までは多分、PCがあれば困らなかった。逆にいうと、人間が持つ、情報やデータに対する認識がそのくらいの世界だったわけです。

 私は小学生のときに図書館に行ったとき、この本を全部読むことは一生かけてもできないのだろうなと思いました。この世界の情報量に圧倒された初めての出来事でした。もちろん当時の認識は視野が狭く、本当はもっと、この世界に溢れている情報量は多いわけです。例えば音楽や映像で一生かけても消費しきれないデータを所有することができます。しかもその現在の情報量の膨大さを圧倒的に凌駕する情報がこの世界に現れるわけです。

 でも、その情報に意味を持たせなければビジネスは成り立ちません。データだけ見せても誰も喜びませんよね。IoT時代では、膨大なデータを解析し、データに意味を持たせ、価値を創出する必要があるのです。

 その膨大なデータを解析するひとつの方法として、組み合わせ最適化問題があるわけです。これまではどうにかコンピュータの進化で追いつけていましたが、IoT時代では一気にデータ量が増大します。それに気づいた人たちが、次なる手として作り出したのが、最近では機械学習ライブラリ専用チップTPUや、量子アニーリングマシンD-Waveだったり、というわけです。専用のチップ、専用のマシンで汎用的な処理を行う。専用と汎用、一見、逆の方向に進んでいるように思えるのですが、こうした潮流は確実に出てきています。

 <第2回に続く>

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