日本マイクロソフトがクラウド事業を急拡大させている。ただ、クラウドはオンプレミスと売り上げの計上の仕方が異なるため、業績が一時的に落ち込む可能性がある。同社の場合、果たしてその影響はどうか。
2017年度のクラウド売上比率は50%に拡大へ
会見に臨む日本マイクロソフトの平野拓也社長
「クラウド事業が急拡大しており、全売上高に占める比率が2016年度第4四半期(2016年4~6月)で32%になった。この勢いをさらに加速させて2017年度(2016年7月~2017年6月)は50%に引き上げたい」
日本マイクロソフトの平野拓也社長は7月5日、同社が開いた2017年度の経営方針に関する記者会見でこう語った。同氏はかねて、2017年度にクラウド事業の売上比率を50%にすることを目標として掲げており、改めてその達成に向けた決意を明らかにした格好だ。
平野氏が会見で説明した経営方針の全体の内容については関連記事を参照いただくとして、ここではクラウド事業の拡大に伴う動きに注目したい。同氏は2017年度のクラウド事業展開について、「国内データセンターのさらなる増強」「業種別ソリューションの拡充」「クラウドソリューションプロバイダー(CSP)とのパートナーシップの強化」などの施策に注力していく考えを示した。
それにしても、クラウド事業の売上比率が直近の四半期で32%になり、2017年度で50%に達する勢いは目を見張るものがある。平野氏によると、この比率の推移はもはや米国本社とほとんど変わらないと言う。
そこで筆者はぜひとも聞いてみたいことがあった。それはクラウド事業の拡大に伴う業績への影響である。
ソフトベンダーが懸念する“マイナスのスパイラル状態”
クラウド事業の拡大に伴う業績への影響とはどういうことか。オンプレミス向けソフトウェアの場合、製品を販売したときに売り上げを一括して計上できるが、クラウドサービスはサブスクリプションモデルなので、例えば月ごとの売り上げ計上となる。したがって、ソフトウェアベンダーにとってはオンプレミスからクラウドへの移行が進むにつれ、売り上げが減少する。また、売り上げ減少とともにクラウドへの投資もかさむことから利益率も低下する。
一方、クラウド事業は採算点を超える規模になれば、あとはストックビジネスとして業績に寄与する。そこに到達するまでオンプレミス事業も推進しながら業績が停滞する期間をどれだけ短くできるかがカギとなる。ソフトウェアベンダーが懸念するのは、オンプレミス事業が落ち込む一方でクラウド事業がなかなか採算点を超えられず、いわゆる“マイナスのスパイラル状態”に陥ってしまうことだ。
果たして、マイクロソフトの場合はどうか。米国本社の2016年度第3四半期(2016年4~6月)決算を見ると、クラウド事業は伸ばしつつも全体の業績としては減収減益となっている。米国本社の業績不振は縮小する方向にある携帯電話端末事業などの影響もあるが、クラウド事業の拡大に伴うビジネスモデル転換の真っ直中にあるとの見方もできる。日本法人は個別の業績を明らかにしていないが、同じ現象が起きている可能性は十分にある。
日本マイクロソフトはどうか。会見後、平野氏に単刀直入に聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「クラウド事業の拡大に伴う業績への影響は常に注視している。経営としては乗り越えなければいけないプロセスだ。クラウド事業はデータセンター設備をはじめとして巨額の投資が必要となるが、マイクロソフトはグローバルでも日本でも、これまでオンプレミスと合わせたソフトウェア事業全体として売り上げを落とさず、黒字もキープしてきた。このスタンスは今後も死守するというのが会社全体のコンセンサスとなっている」
では、クラウド事業そのものが業績アップに大きく貢献し始めるのはいつからか。平野氏は「売り上げでも利益でも柱になるのは、それこそ2017年度が転換点になると考えている。2018年度からは安定した成長軌道を描けるようになると確信している」と語った。
果たして、思惑通りにビジネスモデルの転換を図ることができるか。このプロセスは、オンプレミス事業を手掛けてきたソフトウェアベンダーにとって避けて通れないだけに、この分野で世界最大のマイクロソフトがどのように“変身”するか、大いに注目されるところである。