研究現場から見たAI

アメーバから学ぶロボット開発--「振動」がAI研究を進化させる - (page 4)

松田雄馬

2016-10-13 07:00

「振動」から考える人工知能

 前々回(第3回)でご紹介した通り、現在ブームになっている「人工知能」の多くはニューラルネットワークによって行う「深層学習」である。これは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)が「発火」しているかどうかの状態を記憶(学習)させる仕組みを模し、画像などを学習させる仕組みである。

 この仕組みは、今回のコラムを読まれた勘の鋭い方はお気づきのことであろうが、「振動」という考え方が含まれていない。ニューラルネットワークは、入力として(振動やリズムを持たない)画像を読み込ませ、それを、(本来であればリズミカルな振動が行われる神経細胞のアナログの仕組みを削り落とし、「発火した」か「発火していないか」の0か1のデジタル情報に落とし込んだ)ニューラルネットワークによって画像を表現するという仕組みであり、本来の脳が持っている「知性」が削り落とされてしまっている。


 一方で、ロボットの自動制御に関しては、まさに振動パターンが身体のリズミカルな動きを生成する仕組みが取り入れられている。こうしたことを鑑みると、ニューラルネットワークにも、リズミカルな振動を用いた仕組みを採用することで、ブレイクスルーが起こるのではないかと、一部の研究者は考えている 。

 ロボットの自動制御でなくとも、今回の内容は、情報システム全般に対して応用できるのではないかというのが筆者の考えである。

 情報システムのユーザーインターフェースの設計に関し、「インタラクティブ(双方向)」という考え方があるが、われわれ人間の「生き物」らしい仕組みとして「リズミカルな振動が引き込むことによる同期(シンクロ)」というものがあるとすれば、そうした考え方を用いた情報システムの設計、すなわち、ユーザーの持つリズムに対し、システム側が同調していくことにより、その場その時にしか生じない「知性」にも似たものが創発する、そのような情報システムの設計があるのではないかと筆者は考えている。

 例えば、音声合成や音楽の生成は、わかりやすい例である。自然言語の音声合成は、統計データを用いることで、抑揚の付け方などが、かなり人間の話す自然言語のそれに近づいてはきた。しかしながら、間の取り方などに関して、場との相互作用を考えた設計がなされていないため、どうしても不自然さが残ってしまう。こうした情報システムに対し、場のリズムへの引き込みをシステムに組み込んでしまえば、その場その場で適切な抑揚や間の取り方ができるようになり、対話している人間も「心地よさ」を感じるようになる。

 現状、そうした、人間との相互作用においてリズムを考慮した情報システムというものはほとんど世に出ていないが、生命を生命たらしめているものが「リズミカルな振動」によるものであるのであれば、それを情報システムに取り入れるというのは、意味のあることなのではないだろうか。

松田 雄馬(工学博士)
2007年3月、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了後、2007年4月、日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、東北大学と共同で、脳型コンピュータの基礎研究プロジェクトを立ち上げる。
2015年6月、情報処理学会DICOMOにて同研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。
2015年9月、東北大学にて博士号(工学)を取得。
2016年1月、日本電気株式会社(NEC)を退職し、独立。
現在、ラオスをはじめとする発展途上地域における情報技術の現状を調査するとともに、そうした地域ならではの新事業を創出する企業の設立準備を実施している。

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