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FinTechの実際

FinTechがベンチャーと親和性を持つ理由--イノベーションに向かない金融機関

小川久範

2016-11-11 07:00

 前回、金融機関がFinTechに取り組むには、ベンチャーとの協業が不可欠であると述べた。金融機関が新規事業の創出に不慣れであるのに対し、事業創造こそがベンチャーの役割だからである。

 今回はFinTechにベンチャーの力が必要な理由について、金融機関とベンチャーの差異に着目し、もう少し深く考察してみたい。

金融機関が新規事業を立ち上げるのは難しい

 金融機関はこれまで新しい事業を立ち上げることがほとんどなかった。あったとしても、規制緩和による生損保の相互乗り入れ(生命保険会社と損害保険会社が子会社を通じて互いの事業に参入すること)のように、既に事業が成立している領域への参入であり、進出する業界から経験者を採用することで、事業ノウハウを獲得することができた。

 ベンチャー企業のように、市場が存在するかも分からない領域で、ゼロから事業を立ち上げた経験があるところは、ほとんど存在しないのではないだろうか。地域活性化のためにクラウドファンディング事業を立ち上げた地方銀行などは、稀な事例と言える。

 事業立ち上げの経験が少ないこと以外にも、金融機関がFinTechに苦労する理由がある。事業の立ち上げには、何よりも顧客の課題を知ることが重要である。しかし、残念ながら金融機関は、顧客ではなく当局や競合他社の動向ばかり見ていると、指摘を受けることがある。

 顧客満足度調査はあるものの、ユーザーの動向に敏感なネット業界と比較すると、サービスの利用動向に関する調査レポートやデータは少ないと言わざるを得ない。これは、ユーザーについてより詳しく知りたいというニーズが、金融機関には乏しいことの証左かもしれない。


 技術が分からないためFinTechで後手に回っているとの指摘もある。金融機関に限った話ではないが、日本で特に大手企業に勤める人は、どのような職種に就きたいかではなく、どの会社に入りたいかで就職先を選び、その後のキャリアは人事部任せということが依然として多い。

 IT部門の人は、IT部門に配属されたというだけで、必ずしもエンジニアとしてキャリアを積み上げるつもりはない。エンジニアのキャリアを選ぶ人は、新しい技術に取り組むことが難しい保守的な企業ではなく、ベンチャー企業や大手でも革新的なネット企業を選ぶことになる。

 金融機関が厚遇で優秀なエンジニアを求めても、エンジニアは自分の技術力が陳腐化するのを恐れるため、新しい技術を使う魅力的な仕事を提供できなければ、採用するのは難しい。技術が分かる優秀なエンジニアは、金融機関には存在しないとまでは言わないが、人数が限られる。

 大手企業ならではの問題もある。ベンチャー企業であれば、新規事業が失敗に終わっても、投資額はあまり大きくなく、知名度が低いため評判が落ちるリスクも小さい。

 一方、大手企業が新規事業に失敗すると、ベンチャーの比ではない投資が無駄になり、ブランドに傷がつくなど、失うものが大きい。また、事業が立ち上がっても、大手にとっては売上規模が数億円や数十億円では不十分で、社内の協力をあまり得られないことがある。大企業が新規事業立ち上げに乗り越えなければならないハードルはとても高い。

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