FinTechブームである。メディアはFinTechのニュースを取り上げ、専門の雑誌まで誕生した。FinTechが衆目を集めるにつれ、挑戦する起業家が増え、そこに資金を供給するベンチャーキャピタルは新しいファンドを設立している。国や行政もFinTechに対する関心が高く、金融庁は相談窓口を設置し、経済産業省は研究会を立ち上げた。当然ながら金融機関もFinTechに取り組んでおり、専門部署を立ち上げたところさえある。しまいには上場企業がFinTechベンチャーとの提携を発表すると、それだけで株価が高騰する始末である。
これだけ多くの組織がFinTechに関与しているのであれば、その中には上司から「FinTechをやれ」と言われた方がいるのではないだろうか。企画系の仕事をしている方かもしれないし、ICTが関連するからと情報システム部門の方だったかもしれない。そして皆こう思ったのではないだろうか、「FinTechとは何なのか、何をどうすれば良いのか」と。当連載では、そうした方々がFinTechへの取り組みにおいて何らかの示唆を得られるよう、特にベンチャー企業とのオープンイノベーションに資する情報の提供を目的としている。
FinTechって要するに何?
FinTechという言葉が人口に膾炙(かいしゃ)するようになった。ただし、本質を理解しFinTechに取り組んでいける人はどれだけいるのであろうか。FinTechの本質をとらえ難い理由はいくつか考えられる。第一に、FinTechが多様な製品やサービスを包含しているためである。FinTechには、金融サービスそのものもあれば、個人のお金や企業の財務に関する情報を管理するサービスや、金融機関が利用する技術もある。類似性と言えば、広い意味でお金に関係するということくらいである。千差万別なものをFinTechと一言でくくっても、個々の製品、サービスに共通点を見出すことができなければ、本質を理解するのは難しい。
第二に、FinTechは製品やサービスを提供する企業を意味することがあり、その場合古いFinTechと新しいFinTechが存在するためである。FinTechという言葉は現在のブーム以前から存在し、金融機関向けにITサービスを提供する企業を指していた。海外ではこうした企業のランキングが発表されており、金融サービス企業のIDC Financial Insightsによる「FinTech Rankings 2016」には、日本からNTTデータと野村総合研究所が上位にランクインしている。一方、最近注目されているFinTechとは、ユーザー本位のサービスや、その実現に役立つ技術を提供するベンチャー企業のことであり、古いFinTechが顧客として金融機関を向いているのに対し、利用者を向いている点で一線を画する。どちらの立場に立つのかによって、提供するサービスの性質は異なるものになる。