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FinTechの実際

上司に「FinTechをやれ」と言われたら - (page 3)

小川久範

2016-10-17 10:00

 既存の金融機関の中にも、自社の金利や手数料が不当に高いと思う人は、もしかしたら存在するかもしれない。ただし、それを是正するために業務として取り組むことは、恐らく不可能である。また、最新のテクノロジに興味を持つエンジニアは、金融機関にも務めている。だが、万が一トラブルが発生した場合の影響の大きさを考慮すると、大手ほど新しい技術の採用に慎重になるのは仕方がない。FinTechは、既存の金融サービスを破壊しても困らず、失敗しても影響が小さいベンチャー企業だからこそ実現できるのである。

 なお、Laplanche氏は最後にもうひとつわれわれに教訓を残してくれた。同氏はローン債権の売却に関して不正があったとして、2016年5月にCEOを辞任した。ベンチャー企業といえども、コンプライアンスに関してはしっかりとした対応が求められ、不備は許されないということを、身を以て示してくれたのである。

世の中の課題に“気づき”解決する

 FinTechの本質とは何か。結論を言えば、筆者はお金に関連する課題の解決であると考える。人々や企業がお金について困っていることを解決し、満足してもらえれば対価を得ることができる。その意味では、FinTechベンチャーと既存の金融機関との間に本質的な違いはない。ただし、FinTechベンチャーは、最新のテクノロジを活用することで、金融機関よりも広範囲の課題を解決することができる。技術のおかげで、これまで不可能だったことが可能になったり、金融機関では採算が取れない市場に参入できたりするためである。またベンチャーは失敗した場合に失うものが大手と比べて少ないため、失敗を恐れず独自性の高いビジネスモデルを試すことができる。こうして生まれた新しい金融サービスが、FinTechと呼ばれている。

 FinTechへの取り組みにおいて最も重要なのは、課題の発見である。海外で多種多様なFinTechが誕生しているのは、お金に関連する多くの課題が存在し、しかも見つけやすいためである。口座維持手数料を払うことが難しい貧困層は、銀行口座を開くことができない。移民がクレジットカードを持つことは難しく、現金決済が主流ではない国では不便極まりない。金融サービスを利用できたとしても、手続きの煩雑さや手数料の高さへの不満は多くの国で共通である。一方、国内においては、海外ほど既存の金融サービスに対する不満が大きくないため、課題を見つけるのは容易ではない。課題の発見には、利用者を理解し、その不満や不便に共感して気づくことができる感性が求められる。

 「FinTechをやれ」と言われた方は、まずは自社の顧客に話を聞くべきである。すべては顧客を理解するところから始まる。ただし、事業内容が規制により制約を受ける金融機関は、利用者の課題を発見し、解決方法を生み出し、事業として成立させるというプロセスに不慣れである。一方ベンチャー企業とは、この一連のプロセスを最適化した組織であり、テクノロジにも強い。FinTechに取り組む金融機関が、ベンチャー企業とのオープンイノベーションという方法を採るのは、当然の帰結と言える。「FinTechをやる」とは、要するに、利用者が本当に求める金融サービスを提供することである。そのためには、ベンチャー企業との協業が不可欠である。

小川久範
日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。560本以上の企業レポートを執筆し、数十社のIPOに関与した。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に、4年間に亘り調査を行ってきた。2014年10月には、国内初のFinTechに関するレポートを執筆した。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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