ハイパーイメージングが自動運転車に組み込まれるのに長くはかからないだろうが(おそらく5年程度か)、その数年後には近所の薬局にも入ってくるだろうし、さらに言えば、スマートフォンで同じことができないと考える理由もない。もし将来、必要なセンサやイメージングキットがスマートフォンに組み込まれれば、アレルギーやセリアック病の患者が、ハイパーイメージングを使って、食べ物に症状を引き起こす物質が含まれていないかを調べられるようになるかもしれない。
またIBMは今後数年以内に、AIと新しい分析技術を利用して、血液などの体液1滴からバクテリアやウイルス、病気の兆候を示すタンパク質異常などを発見できるポケットサイズのデバイス、「チップ上のメディカルラボ」を作ることに成功するかも知れない。
「われわれは6,7年前に、嗅覚を模倣するナノファイバーを使って小型のカンチレバーセンサを製作し、そのセンサに匂いを通すことで、仮想的な鼻を作るという研究に取り組んでいたことがある。これを他の形態のセンサと組み合わせれば、同様のナノ構造を使って、唾液や血液、生体検査の組織サンプルなどの体液のサンプルを分析して、潜在的な病気がないかを調べることができる。デジタル製造や3Dプリンティングのようなテクノロジを組み合わせることで、カスタム設計の検査デバイスにセンサを組み込み、分析や検査ができるようになってきている」とParmar氏は述べている。
この小さな「チップ上のメディカルラボ」を使えば、数日から数週間かけてウイルスを培養して血液検査を行わなくても、体液中に存在する有機体のわずかな痕跡を捉えることができる。
しかし、最も有益な使い道は、普通のユーザーが、症状が出始める前に自分の病気を調べることかもしれない。例えば、アルツハイマー型認知症であれば、病気の症状を引き起こす神経生物学的変化は、患者に兆候が現れてくるよりもはるかに早い段階で起こっているはずだ。定期的に血液を検査して、この病気の兆候を示すバイオマーカーを調べれば、健康状態の変化が起こり次第それを知り、状況に応じて治療を始めたり、計画を立てたりすることができる。
1滴の血液をナノスケールレベルで分析するには、強力なAIの処理能力が必要だが、IBMがこのチップを市場に供給するための最大の課題は、そのシリコンだ。
「現在これらのチップは20nmレベルでのモニタリングが可能だ。この粒度は非常に細かく、ウイルスレベルまで調べることができる。これ以上解像度を上げるためには、かなりの努力が必要だ」(Parmar氏)
一方メンタルヘルスは、大量のデータをAIで処理することで、臨床医にとって有益な情報を得られる分野の1つだ。IBMは今後2年間で、患者の会話内容だけを使って、メンタルヘルス専門家の診断を支援する機械学習システムのプロトタイプを作る予定だ。