Rethink Internet:インターネット再考

無数の糸が織り成すテキスタイルとしてのインターネット(前編) - (page 2)

高橋幸治

2017-04-01 07:00

人間は点ではなく線(=糸)であり、インターネットはその編物

 この“点と点を線で結ぶものがインターネットである”という共通認識というか固定観念は実に根強く、WWW誕生からの25年という時の流れの中ですっかり人口に膾炙してしまったため、いまやその簡略性に疑いを差し挟む余地などまるでないほど自明のものとなっている。

 確かにインターネットは人と人、デバイスとデバイス、サーバとサーバを接続するものである。そういう意味ではひとつのイメージモデルとしては“点と点を線で結ぶものがインターネットである”という認識は決して間違ったものではない。

 しかし、本連載の趣旨である第二四半世紀に突入したインターネットをいま一度再考するという観点からすると、ユーザーとしての人間は静的で不動な点として表徴され得るものなのか、さらに、人間と人間を連結するインターネットは真っ直ぐな線として表徴され得るものなのか……という疑問がわいてくる。

 本連載の第1回でも述べたように、「四半世紀という時の流れは、人間にとってのインターネットを外部的には環境化し、内部的には血肉化した」のだとすると、人間自体が実は無数の微細な線(=糸)でより合わされた情報繊維体のようなものであり、それらがあちらこちらで複雑に絡み合ったり不格好な大小の結び目を作ったりしている交錯体がインターネットの現在的な姿なのではないか。


イギリスの社会人類学者であるティム・インゴルドの『ラインズ 線の文化史』(左右社)。人間の進化の過程で「線」がいかに重要な役割を果たしてきたかを解き明かす興味深い論考

 この「線」という概念を社会人類学の視座からさまざまな文化的事象に適応した刺激的な思考実験としてティム・インゴルドの『ラインズ 線の文化史』(左右社)という書物がある。同書の中からインターネットのイメージモデルにも多用される「直線」についての指摘を少しだけ引用してみよう。

 西洋社会の至るところで私たちは直線に出会う。直線があるはずのない状況でも直線に出会う。直線は、近代性の仮想的イコン、すなわち自然界のうつろいやすさに対する合理的で明確な方向性をもつデザインの勝利の指標として登場した。

 近代的思考の徹底的な二項対立図式のなかで、直線は、物質に対抗する精神に、感覚知覚に対抗する理性的思考に、本能に対抗する知性に、伝統的な知恵に対抗する科学に、女性原理に対抗する男性原理に、原始性に対抗する文明に、そして――もっとも一般的なレベルにおいて――自然に対抗する文化に、しばしば結びつけられてきた。そうした連想の例を一つひとつ挙げるのは難しいことではない。

<後編に続く>

高橋幸治
編集者/文筆家/メディアプランナー/クリエイティブディレクター。1968年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年までMacとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに主にデジタルメディアの編集長/クリエイティブディレクター/メディアプランナーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科にて非常勤講師もつとめる。「エディターシップの可能性」を探求するセミナー「Editors' Lounge」主宰。著書に「メディア、編集、テクノロジー」(クロスメディア・バブリッシング刊)がある。

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