政府が「働き方改革」を主導し、春季労使交渉でも大きな焦点となっている中、国内企業にとってはIT活用による「ワークスタイル改革」が大きな関心事となっている。果たして、その取り組みの実態はどうか。
ワークスタイル改革を推進中の企業は2割という実態
日本情報システム・ユーザー会(JUAS)が先ごろ、東証一部上場企業とそれに準じる企業を対象に実施した「企業IT動向調査2017」における「ワークスタイル改革」に関する調査結果の速報値を発表した。この内容が非常に興味深いので、ここで取り上げたい。
まず、ワークスタイル改革の定義について同調査では、「従来の固定した勤務時間、場所を前提とした働き方から、個人の仕事や生活のスタイルに合わせバランスをとった働き方へと変革を図っていくこと」としている。
それを踏まえて「ITを活用したワークスタイル変革を推進しているか」との質問に対しては、「3年以上前から推進している」もしくは「この数年で推進するようになった」と答えた企業が全体の20.4%にとどまった(図1)。このうち、およそ半数の11.4%が3年未満だった。さらに「現在、試行・検討を始めたところ」は21.2%と、取り組みを始めたばかりであることが明らかになった。
図1:ワークスタイル改革の推進状況(出典:JUASの資料)
こうした状況から、JUASでは「ITを活用したワークスタイル改革はこれからの段階にある」としている。
業種別にワークスタイル改革の推進状況(図2)を見ると、最も取り組みが進んでいるのは金融だ。「3年以上前から推進している」「この数年で推進するようになった」「現在、試行・検討を始めたところ」と答えた企業は合計で56.2%と、半数以上がワークスタイル改革に向けて何らかの行動を開始していることが分かった。
図2:業種別のワークスタイル改革推進状況(出典:JUASの資料)
また、金融において特徴的なのが、取り組みを始めたばかりの企業が多いことだ。ワークスタイル改革を「3年以上前から推進している」企業は5.3%で全業種の中で最も少なく、逆に「この数年で推進するようになった」が22.8%、「現在、試行・検討を始めたところ」が28.1%と、いずれも全業種の中で最も大きな割合を占めている。JUASによると「金融はこれまで他業種に比べて取り組みが進んでいなかったものの、最近になって急速に活発化している」という。
働き方改革は「生き方改革」--「働かせ方改革」の懸念も
では、企業はITを活用したワークスタイル改革にどのような期待を抱いているのか。各企業が期待する効果として挙げた1位から3位を集計したのが図3だ。
図3:ワークスタイル改革に期待する効果(1〜3位、出典:JUASの資料)
圧倒的な期待を集めているのは「業務を効率化(生産性向上)するため」。これを1位とした企業は全体の57.0%に上った。次に期待が高いのは「育児など社員が働きやすい環境を作るため」の23.8%だった。JUASによると「業務の効率化によって長時間労働を解消しようとの狙いがうかがえる」としている。
なお、同調査は4000社のIT部門長に調査票を郵送して回答を得た。調査期間は2016年9月30日から10月18日。有効回答社数は1071社。設問によって有効回答数は異なる。正式なデータや分析結果は4月上旬に公表する予定だ。
あらためて、ITを活用したワークスタイル改革を推進中の企業が全体の約2割にとどまることが明らかになったのは、JUASの指摘通り、まだ取り組みは始まったばかりということだ。
この機に、筆者も働き方改革について、これまでの取材で得た感触から一言申し上げておきたい。それは、働き方改革の真の目的は何かということだ。筆者の感触では、それは社員がそれぞれ成長を実感できることだと考える。もっといえば、それは仕事だけでなく「人として」だ。その意味では、働き方改革はまさしく「生き方改革」ともいえよう。
働き方改革を推進する企業の経営者は、ぜひともそうした視点を持って、社員の成長実感に向けた取り組みを図っていただきたい。くれぐれも業務の効率化や生産性向上ばかりを追求するような「働かせ方改革」にならないように注意すべきである。働き方改革は、経営者の真のマネジメント力が問われていることを肝に銘じておくべきだろう。