「マーケティング自動化」の夢
中東氏:先ほどのフェラーリの例えで言えば、近所の田んぼ道をフェラーリでぐるぐる回っているのですが、そもそも行くべきところは海の向こうなのか、山の向こうなのか。必要な車はフェラーリだけなのか、SUVもいるのではないかとか、ボートはどうなのかという話がまだ全然議論できていない。行き先をきちんと決めた上で、必要なツールやスタックをどう組むのか、どことやるのか。マーケティングオートメーションだけでは万能ではないので、こうした考えを社内も含めて浸透させて行くのはものすごく手間暇がかかります。
飯室氏:やはりマーケティングオートメーションはマーケティング部門だけで導入できてしまったので、私がいたグローバルのGEでも「入れてしまった」という状態でした。日本の場合、展示会や営業経由で集めた顧客の名刺の情報だけしかマーケティングは取り扱っていません。実際には修理部門からコールセンター、注文など社内にはたくさんの部署があるのに、マーケティングオートメーションをつなぐのはウェブとメールのデータベースだけなんですね。
すぐに使いたいマーケターは、Oracleなどで管理しているエンタープライズのデータとは切り離されている状態でも、とにかくやろうとするわけです。受注やコールセンター、広告などのデータともつながっていない。これらをつなげるという夢を持ってはいるのですが、実際には修理やコールセンターでつながろうとしてくる顧客は無視して、引き合い案件を取りにいくという機能だけを使ってしまっている。
グローバルでは数年前にカスタマーエンゲージオートメーション(CEA)というプロジェクトが走りました。要は日本語でいうところの”プライベートDMP”のようなものをB2Bでやりましょうというわけです。それは結局、一気通貫でデータをつなげて横串を刺すという理想的な話で、現実にはユーザーデータベースだけで26種類あって、社内に横串を指すべきデータベースは80以上ある。
さすがにGEでも、2年間やったこのプロジェクトは頓挫してしまいました。IT部門もきちんと議論に入りましたし、外部のコンサルティングも入って、素晴らしい絵を描いたのに。今は何をしているかというと、CMSの機能がすごく上がってMA並みになってきたので、そちらの方が面白そうだという流れに変わっています。MAはうまく使いこなせなかったというのが現実ですね。MAを使いこなせていないところが一所懸命やっているのは、まだ夢を持ってやっているのかなという感じです。
尾花氏:その「夢を持って」という部分が、2015年、2016年前半と、マーケティングオートメーションが本当にブームだった時と、2016年の後半くらいから今にかけて少し変わってきた印象があります。2015年、2016年前半くらいまでは、「マーケティングオートメーションを入れたのだが、何ができるのかを教えてください」というものでした。