SLUSHはオープンイノベーションの見本市へ--課題先進国の解決策を世界にアピール

山田竜司 (編集部)

2017-04-10 07:00



Slush Tokyoを主催したAntti Sonninen氏

 フィンランド発祥の世界最大級のスタートアップイベント「Slush Tokyo 2017」が、3月28~29日にビックサイトで開催された。起業家志望者への講演に加え、80社のスタートアップが海外市場を意識した英語でのピッチバトルを展開し、聴衆から歓声が上がった。参加者は4000人から5000人に増え、着実に成長を見せているという。

 Slush Tokyoを主催したAntti Sonninen氏は「SLUSHは前回から学生ボランティア中心の運営にしたのだが、3年目は2年目のスムーズさという問題点を克服し、サスティナブルな組織に成長している」とアピール。チケットの売り上げや来場者数など成長に手ごたえを感じていると話す。

オープンイノベーションを成功させるヒント

 ブースを出しているスタートアップ企業とともに、アクセンチュアやPwCといったコンサルティングファームやGoogle、IBMなど世界的な大手IT企業が見られる。

 今年で3年目を迎えるSLUSHに毎年出展しているアクセンチュアはどのような意図をもっているのか。スタートアップ拠点であるアクセンチュア・デジタル・ハブ統括の保科学世氏は「目利きしたスタートトアップの成長を披露し、パートナーとなりうる企業に紹介する場」として活用しているという。

 例えば、2015年からSLUSHを通じてアクセンチュアと連携しているトリプル・ダブリュー・ジャパンは、排泄予知ウェアラブル「DFree」を開発、2015年から神奈川県横浜市にある特別養護老人ホーム「和みの園」の150人を対象に実証実験を実施してきた。


(左から) Tripple Wの代表取締役 中西敦士氏 アクセンチュア代表取締役社長の江川昌史氏 アクセンチュア・デジタル・ハブ統括の保科学世氏

 排せつケアの業務を効率化して、1人あたり介護時間を30%減少するという成果を出している。両社は2016年11月に業務提携、この5月から実際に製品を発売し、香港やフランスなど海外展開も視野に入れている。

 代表取締役社長の江川昌史氏もブースに訪れ、「日本発で世界に展開できるサービスをスタートアップと作りたい」と意気込んでいた。


Mistletoe 最高経営責任者(CEO)の孫泰三氏

 Tripple Wの代表取締役 中西敦士氏は、大企業とスタートアップがうまく連携するためのポイントについて、「大企業側に身銭を切ってもらい互いに成果をコミットすること」と話す。実際、アクセンチュアからエンジニアを無償で2人派遣してもらっているという。

 SLUSH Asiaの運営に参加しているMistletoe 最高経営責任者(CEO)の孫泰三氏もオープンイノベーション成功には「スタートアップ側に大企業の人間を送り、1年は出向するなどコミットすることが重要」と説明する。


リクルートホールディングス 新規事業開発室 室長の麻生要一氏

 スタートアップ側はリソースが増えるだけでなく、大手企業のビジネスや取り引きの感覚が分かるメリットがある。エンタープライズ側もスタートアップのカルチャーや事業のスピード感を学べる。「大企業は金銭の投資ができなくてもスタートアップに人のリソースを提供するのが重要」(孫氏)とした。

 次々と新たなサービスを産み出しているリクルートホールディングス 新規事業開発室 室長の麻生要一氏も、オープンイノベーション成功させる前提として「大企業側に“アントレプレナー精神”やカルチャーがないと厳しい」と指摘する。

 アントレプレナーのカルチャーや雰囲気を企業内に醸成するためにも、オープンイノベーション成功のために、まずはスタートアップと小手先ではない連携が必要であることがうかがえる。

 

海外市場を見据え、社会課題に取り組み始めたエンタープライズ

 80社が競ったピッチコンテストで優勝したのは、点字を表現できるスマートウォッチ/タブレットをプレゼンテーションした韓国スタートアップの「dot」であった。

 こうした社会起業分野でのビジネス創出が、スタートアップだけのものではなくなってきている。前述の排泄予知ウェアラブルやリクルートが発表した就労支援オンライン学習プログラム「KNOWBE」や、移動に困っている高齢者などを地域のドライバーをマッチングさせる「あいあい自動車」などエンタープライズが社会課題に取り組む際にスタートアップと連携したり、地方自治体と組むケースがみられる

 「一つの企業のみの価値観ではなく、地方自治体や公共分野など未だかつて交わったことのない領域と交わることで、イノベーションが生まれる確率やスピードが上がると考えている」(リクルートホールディングス 麻生氏)

 この提携には、課題先進国である日本の社会課題を解決するサービスをいち早く開発する狙いもあるようだ

 人口減社会に突入している日本で、海外展開を見据えているのはグローバル企業だけではない。SLUSHにブースを出展した仙台市の企業誘致担当者は「これまでは地方から東京へアピールしてきたが、人口が減っている日本国内ではなく、海外のスタートアップや企業を呼び込みたい。また、そうしたつながりも含めて海外展開を狙いたい」と話していた。

 IDCの調査ではエンタープライズの27.4%が「今後最も重要な経営課題」として「新規事業/イノベーション創出」を挙げたというデータもある。イノベーション創出の確立を上げるためにますますエンタープライズとスタートアップの連携が増えていきそうだ。

 英語でのプレゼンテーションが必須のSLUSHは、課題先進国である日本の社会課題を解決するサービスを世界にプレゼンテーションする場として機能しているといえる。


3年目のSLUSH

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