新しい宇宙ビジネスにおける次世代ITの存在感
宇宙産業ビジョン2030では次世代ITの存在感が極めて強い。宇宙技術の革新について、従来型の宇宙技術の発展のみならず、ビッグデータ・AI・IoTやクラウドプラットフォームなどの次世代IT技術との融合や、小型化技術などによる低コスト化の追求などが必要とされている。
前回までの記事では、ビッグデータやAI技術が衛星データ解析を高度化し、他産業での利用につなげる付加価値化の鍵となることを紹介した。これは、宇宙ビジネス×次世代ITのごく一部分に過ぎない。
これからの宇宙ビジネスでは、ハードウェアの製造から衛星運用、データ・プラットフォームからデータ解析、付加価値サービスに至るまで、さまざまな側面で次世代ITとの融合が進む。これによって産業の拡大、新規事業の創出、効率化、付加価値化などが加速する。米国を中心に、既にこの動きはリアルになっている。
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宇宙ビジネスと次世代ITの呼応の姿
これには、宇宙系企業だけでなく、IT系を中心とした他産業の宇宙ビジネス参入が重要だ。誰でも知っているクラスのIT企業が宇宙系企業と連携したり、自ら宇宙事業を興したり……宇宙ビジネスは、他産業にとっても大きなビジネスチャンスとなり得るのである。
宇宙産業ビジョン2030は、そんな産業の姿を思い描いている。とてもチャレンジングではあるが、あるべき産業像の本質を突いているだろう。
宇宙ビジネスをも巻き込むクラウド・プラットフォーム・ビジネス
世界の衛星ビジネスで次世代ITとの連携が進んでいる中で、最も表立って動きが活発なのは、Amazon Web Service(AWS)やGoogle Cloudなどに代表される、クラウド技術に基づくデータ・プラットフォームを持つ事業者の、衛星データ・ビジネスへの参入である。
特に衛星関連ベンチャーでは、そのほとんどがAWSなどのクラウドを使用していると言われている。AWS自身も、以前より米国Landsatのデータを無償公開しており、衛星データの利用促進の一役を担ってきた。
欧米政府は包括的な産業ビジョンを公表していないものの、この領域でのアクションは早い。政府主導の“政府衛星データのオープン・フリー化”事業によって、この流れを後押ししようとしている。実際、これには世界的なクラウド事業者が複数社参画している。
宇宙産業ビジョン2030においては、4本の柱のひとつである「宇宙利用産業」の振興の中で、欧米と同様の“政府衛星データのオープン・フリー化”を強力に進める方針が掲げられている。これは、IT分野のビッグプレイヤーを巻き込む宇宙ビジネスの仕組みが、この日本でも構築されようとしていることを示唆している。
米国NOAAのプロジェクトは複数のプラットフォーマーを呼び込む
米国商務省および米国海洋大気庁(NOAA)は、2015年4月から3年間の取り組みとして、オープンデータ施策の一環であるNOAA Big Data Project(BDP)を主導している。
これは、NOAAの気象観測衛星(GOES、POES)による膨大かつ高品質の地球環境データを、民間企業、組織、個人が自由に利用できるように、民間の大手企業を中心としたIaaS事業者5機関(Amazon、IBM、Google、Microsoft、Open Commons Consortium)のサービスを通じて無償公開している。これらの事業者は公募を経て技術面やビジネス面の評価を元に採択された。
米国政府は、これによって新たな産業領域の育成と新規雇用の創出を狙う。複数の民間企業を通じてデータを提供することになるため、データ活用の利便性向上や、データベースの発展そのものに市場原理を持ち込むことができる。BDPは2018年まで継続予定であり、その社会経済インパクトのとりまとめが待たれる。
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米国NOAAのBig Data Project