また、どこに誤りが生じているかを探し、いたるところに生じ得る誤りを的確に検査するための仕組みも必要となる。
そのためそれぞれの量子ビットを壊さずに(量子コンピュータが動く状態で)うまく検査をして、その上で見つかった誤りを訂正する仕組みを構成する必要がある。ここにさらなる大規模な量子コンピュータの実現に向けての一つの壁が待っている。
藤井氏「2次元的に量子ビットを並べたものを制御するために、3次元配線技術が必須です。これが非常に難しい」(藤井氏)――。IBMやGoogleはその壁の向こうをすでに目指しているのだ。
さて量子コンピュータが実現したとしても、それは新しい形式のコンピュータである。今までのコンピュータにできることを別のマシンにただ置き換えるだけではないのか? そう感じる読者もいるかもしれない。
49量子ビットの量子コンピュータで、現状のスーパーコンピュータでは到底太刀打ちできないレベルの計算能力を示すという挑戦には、大きな意味がある。量子コンピュータの威力は、「複数の状態を保持することができるところ」にある。
既存のコンピュータで実行するには、大量のメモリが必要となる計算に対して有利だ。49量子ビットであれば、先ほどの藤井氏の指摘にあるように、100ペタビットものメモリを必要とする計算を量子コンピュータはやってのけてしまう。
「比較的簡素な量子コンピュータであってもこれまでの計算機に対して、明確な優位性、すなわち量子による加速があること、量子計算が示す超越性(Quantum Computing Supremacy:量子超越性)を理論的に示すと言う強い意味があります。実験技術の進展に伴って、どこまでいけば古典計算機のパラダイム(考え方)に挑戦できるか、という問題です。Googleが開発する49量子ビットは、その量子超越性を示す1つの例と言えます」(藤井氏)
これまでの形式のコンピュータより有力なコンピュータを作れる証拠が示せる――GoogleはNASAと共同で量子人工知能研究所を開設するなど、量子コンピュータ研究・開発の中心的役割を果たしている。
ここにきて量子コンピュータのニュースが急激に増えた背景には、Google、IBMを始め、 MicrosoftやIntelなど有名企業がこぞって開発に多額の費用を投資して乗り出しているという事実がある。
この投資の熱により、研究開発のスピードがさらに増すばかりである。しかし量子コンピュータの歴史はまだまだ始まったばかりだ、と藤井氏は語る。
2016年のAdiabatic Quantum Computingの会場となった量子コンピュータを制作中のGoogle(サンタバーバラ)のロゴ。量子力学の特徴的な記法で表されている。2017年は日本で開催(大関真之氏提供)