今日のデジタルディスラプションの波に乗るには、顧客に焦点を合わせ、スピードとアジリティを加速させることだ。
ディスラプションの波が世界に押し寄せている。しかし、先手を打って行動するのが難しいのはなぜなのだろうか?
ディスラプションに関するさまざまな話の共通点として、企業はもっと時間に余裕があると思っていたというものがある。しかしながら、なぜそう思っていたのかという点について答えは出されていない。この疑問を言い換えると次のようになる。ディスラプションはそこかしこで起こっているにもかかわらず、なぜ先手を打って行動するのは難しいのだろうか?
米国のコンピュータ科学者であり、発明家、フューチャリストでもあるRay Kurzweil氏の収穫加速の法則に端を発するインスピレーションが筆者に訪れた。デジタルディスラプションとは、指数関数的な変革と、ものごとは直線的であってほしいというわれわれの考え方が真っ向から対立することに関する話なのだ。この言葉の意味について以下で詳しく説明する。
- 収穫加速の法則によると、情報テクノロジのような漸進的な系(システム)は指数関数的な変化を生み出す。ある世代のテクノロジは、それに先立つ世代のテクノロジが生み出した成果に基づいて構築され、そうした成果を加速していくためだ。インターネットがクラウドを生み出し、ブロードバンドのワイヤレス接続を活用したモバイルアプリをクラウドが加速させていったことなどを想像してほしい。
- 成果が加速されていく場合、系の持つ基本的な性質として指数関数的なカーブが導き出される。これこそが収穫加速の法則でKurzweil氏が数学的に証明したことだ。情報テクノロジにおいては、べき乗の尺度となり、一定時間ごとに速度は倍加する一方でそのコストは半分になる。例としてムーアの法則を考えてみてほしい。
- この収穫加速の法則は、ムーアの法則が分野を限った特殊な法則ではなく、一般化できることも示唆している。つまり、さまざまな分野でムーアの法則を適用できるわけだ。実際のところ、ギルダーの法則やメトカーフの法則、クライダーの法則といったものも存在している。
- 指数関数的な性質を持つ系の問題は、それが意外とも思える挙動を見せるためだ。この点は、チェスの原型であるチャトランガを発明した人物が古代インドの王様に褒美を要求したという物語からも分かるはずだ。初めの変化は線形で緩やかに見える。しかし、その後は加速にともなって予想に反するものとなり、最終的には1度倍化するだけで、ものごとは問題ない状態から手に負えない状態に激変する。しかもわれわれは、そういった系が初めから指数関数的なのか、それとも人知れず倍加しているのか、はたまた半分に減っているのかが分からないのだ。そして、ある日突然、そのことが露わになる。これがディスラプションだ。