ーー量子アニーリングといえば、最近D-wave SystemsとVolkswagenが共同研究を開始したというニュースがありました。同じ自動車業界として、どのように意識していますか。
寺部:自動車業界でこの分野に取り組んでいるのは、われわれだけだと思っていましたので、驚きました。実用化にはまだまだ時間がかかると考えていたので。
こうしてプレイヤーが増えていくことで、実用化が早まるかもしれません。私見として、Volkswagenの話は、自動車の世界に量子コンピュータ活用が進んでいく大きな転機になると考えています。
岡田:量子アニーリングを「D-Wave」などの専用ハードウェアで解く際は、どんな最適化問題も解けるわけではなく、「イジングモデル(問題について磁性体の振る舞いという物理現象を数式にすること)」という、特殊なモデルに落とし込む必要があります。
実社会の問題をうまくモデリングするのは問題ごとに工夫が必要ですが、そういう視点で、Volkswagenが交通流最適化をどうモデリングしているかは実に興味深いです。
ーーVolkswagen、そして日本からはデンソーが動く。今後車業界でも量子アニーリングを利用した研究は加速していくのでしょうか。

寺部:加速していくと思います。実は今、自動車業界でもIoT化が進み始め、車だけでなく社会も含めた、大きな規模での最適化が必要になると考えられています。
また、ドイツの「Industrie 4.0」に代表されるように、工場でもIoT化が進んでいきます。今まで生産ラインごとに最適化していた、生産計画や設備配置が工場単位で最適化できるようになれば、生産効率を更に向上できます。
デンソーの場合、世界に130の工場があるので、それらをまとめた最適化できたら面白そうです。デンソーでも工場のIoT化を進めようとしています。
こういった最適化ニーズの高まりの中で量子アニーリングの活用機会も増えていくのではと考えています。
ーーデンソーとしての狙いは自動車だけにとどまらない。あくまで応用の一例として考えていて、もっと大きな視点を持っていると。
岡田:ハーバードビジネススクールのMichael Porter教授は、「「IoTは(1)モニタリング、(2)制御、(3)最適化、(4)自律性という進化を遂げていく」と提唱しています。
今後IoT分野で最適化の需要が高まっていき、量子アニーリングが注目されていくのではと考えています。