ーー自動車業界といえば世界中で競争が始まっている自動運転技術の開発で、量子アニーリングが果たす役割とは何でしょうか。
寺部:近年、自動運転に必要と言われる認知、判断、制御の色んな部分に機械学習が使われようとしていますが、機械学習の学習過程も最適化の計算です。
この学習過程は時には数カ月かかることもあり、これが高速・高精度に解けることになれば大きなインパクトがあると思います。
まだまだ基礎研究段階ではありますが、GoogleとNASAの立ち上げた量子人工知能研究所のような、量子アニーリングを使って人工知能を加速する試みには注目しています。これからも負けずに、大関先生と技術開発していきたいですね。

岡田:量子アニーリングといえば、D-Waveマシンのように量子コンピュータとして非組み込みの世界で使うイメージがありますが、これが車載など、組み込みの世界でも使えるようになると可能性が広がります。
ーー(量子コンピュータを使うために)通信するというのも手ですけど、技術革新により量子コンピュータの小型化が進んで、「どの車にも積める」ようになるとしたら夢のような話ですね。ちょっと話題になりましたから、われわれの共同研究内容について紹介しましょう。
寺部:大関先生と量子の性質を応用した探索アルゴリズムとして、「連続値量子アニーリング」という技術を創出しました。これは、量子コンピュータそのものではなくて通常のPCでも使える新技術です。
このアルゴリズムは、並列的に“良い解”を探索しながら、トンネル効果(量子力学の分野でエネルギー的には超えられない領域を粒子が一定の確率で通り抜けてしまう現象)を引き起こすメカニズムを使って“良い解”を得るという方法です。
並列的に用意された解の候補同士を引力で引き寄せ合い、“良い解”に集まるようになっています。
通常の量子アニーリングで想定されているような「スピン系」、言い換えると0と1のデジタル信号に相当するものを動かすものではなく、もっと広範な最適化問題に登場する、連続的な値に対応させたものです。
もっと簡単にできるかと思いきや、トンネル効果をどの程度効かせると効果的なのか、試行錯誤が必要でした。
試しに、文字認識や顔認識などの画像に対するディープラーニングの学習過程に利用をしてみました。従来技術に対し、認識精度向上や学習時間短縮といった効果が出ることを確認しました。