ペプチドリームは、われわれが運営している東京大学アントレプレナープラザにも入居していました。グローバルな巨大製薬企業や日本の製薬企業にも評価され、同社は株式上場し、今は東証一部銘柄として時価総額は約4000億円です。産学の組織が一丸となって、ペプチドリームという会社を成功に導く取り組みをしてきたのです。
ペプチドリームに対して、学生ベンチャーのような事例として挙げられるのが、ユーグレナです。ユーグレナ(ミドリムシ)の研究開発やユーグレナを使った食品・化粧品の製造販売、バイオ燃料技術開発などをしている会社で、(上記の)インキュベーション施設に長く入居していました。
社長の出雲充さんは優秀な経営者で、研究開発を担当している鈴木健吾さんは東証に上場したときには、東京大学の農学系の、博士課程の学生でした。
--そもそも研究成果をベンチャーで事業化しようとする動機はどこにあるのでしょうか。
研究者の社会の問題を解決したい、自分が関わっている研究成果によってそれが実現できるという思いが重要です。
一方で、その思いが空回りしないよう、供給側の論理で勝手に思い込むのではなく、マーケット(顧客)から見ても可能性があるようにつなげることが重要です。
その際、東京大学TLOや東京大学エッジキャピタルの目利きも重要になります。また、技術だけではなく、経営者も必要です。東京大学では、研究者はフルタイムで研究と教育をすることが仕事なので、社長になることを禁止しています。
研究者はあくまで研究のプロであって、ビジネスのプロではありませんから、社長をやるビジネスマンの存在が不可欠です。
--大企業との共同研究もされていますが、企業には何を求められますか。
大企業との共同研究は、本学では年間1600〜1700件実施しています。共同研究というのは、企業・大学が連携して研究することで新たな知的財産を生み出し、その知的財産をその企業が自社の経営資源を活用して事業化することが前提です。
しかし、大企業だけに原因があるわけではないかもしれませんが、共同研究で生み出された知的財産で企業内で事業化されるものはあまり多くありません。
共同研究の成果をビジネスのラインの方につなげることが、必ずしも日本企業の場合は十分でなく、研究者がイノベーション・ドリブンになれるかが課題です。