産学連携の新世紀

「産学連携」から「産学協創」へ--東京大学が目指す“エコシステム”の姿とは - (page 3)

飯田樹

2017-08-09 07:00

--教育プログラムである「東京大学アントレプレナー道場」に参加するのはどういう学生ですか。

 プログラムに登録する時点では、”起業家精神”に満ち満ちている学生は多くはないと思います。ただ、プログラムを通して参加者の中から年間5〜6人でも志を持って起業する学生が出てくれば、世の中を変えていくことができると思っています。

 今年は550人超の学生が登録しており、理系の学生が約7割、大学院生が約6割という属性です。

 ポスドク研究者も参加できますが、博士課程の学生も含めてこうした若い研究者の中には、このまま学術の世界に残れるとは限らないという危機感から、起業やビジネスの世界を知っておくために参加する人もいます。

--取り組みのゴールは何でしょうか。

 大学にある優れた研究成果や学生の持っているアイデアが社会を良くするためのイノベーションとして結実するように、その動きを加速し、イノベーションが実現しやすい環境を作ることがゴールです。

 同時に、ベンチャーの世界と大企業の世界、大学の世界がリンクしてオープンイノベーションを実現することも目的の一つです。

 この20年間、なぜ米国ニューヨーク・ダウ平均株価は最高値を更新し続けているのに日経平均株価はそうでないのかをよく考えてみる必要があります。

 米国の優良企業には、オープンイノベーションの果実を積極的につかみとることによって、高成長、高収益を実現するというダイナミズムがあるからです。例えばGoogleはAndroid、Google Earth、YouTubeからGoogle DeepMindに至るまで、ベンチャー企業を買収して大きな成長を遂げた会社です。

 GEもJack WelchがCEOでいた1981年から2001年までの20年間に890件ものM&Aをやっていて、その中にはベンチャー企業もたくさんあります。米国の場合、ベンチャーのエグジットは90%以上がM&Aですが、日本はまだ株式公開(IPO)に偏っている状態です。

 これまでは、大企業は自分たちだけでイノベーションを実現できる(自前主義)と思ってきました。しかし、ここにきて意識を変えた大企業はベンチャーや大学との本格的な連携の取り組みを進めています。あと2年くらいで、そうした企業の取り組みが業績に反映されるようになるでしょう。

--東京大学の産学連携の取り組みで、成功した事例は。

 ペプチドリームというバイオテク会社が一例です。大学院理学系研究科の菅裕明教授の研究成果をベースに、新しい薬を生み出すための創薬プラットフォームシステムを作り、特殊ペプチドによる創薬の世界を切り開こうとしています。

 菅教授に窪田規一氏(社長)とが出会う機会を作り、東京大学エッジキャピタルがリードインベスターとなり、東京大学TLOという技術移転機関が知的財産戦略の支援をしています。

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