産学連携の新世紀

「東大は起業家精神にあふれている」--大学発の企業数が圧倒的な理由 - (page 4)

飯田樹

2017-08-09 07:00

 もう一つは、文部科学省の事業として実施している「EDGE NEXTプログラム(Global Tech EDGE NEXT)」です。これは主にポスドクや博士課程の研究者に向けたプログラムです。

 今まで研究を続けてきたけれど、学術界に残れないかもしれないと思っている人はたくさんいます。研究者が学術だけのキャリアしか視野にないとしたら、その実現性は現実には厳しいものがありますし、学術以外のオプションを知ることも重要です。

 また、ビジネスプランを書けるようになれば、社長ではなくてもベンチャーの世界でやれるかもしれません。そういう研究者・学生が試しにビジネスや事業化立案の方法論を学んでみるというものです。


 チームを組成して、チームごとにメンターがつき、学術論文を「ビジネスのにおいがするショーケース」に変えていきます。最後は海外投資家を前に英語でピッチできるようにするという、半年間でみっちり行うプログラムです。

 米国はビジネススクールでも学生は理系と文系が混在していて、研究成果からビジネスプランを作ることが日常的に行われます。

 ビジネスプランは稚拙なこともあるのですが、一度プランが完成すると、ベンチャーキャピタリストも”ダメ出し”ができるので、PDCAのサイクルが生まれるのです。

 ビジネスプランから実際に資金調達に至るコンバージョン(転換率)には日本と米国であまり違いがないのですが、研究成果がビジネスプランに耐えうる形にまでなる数は、日本はものすごく少ないため、それを改善しなければなりません。

--最後に、今後の展望をお聞かせください。

 「本郷テックガレージ」や「EDGE NEXTプログラム」、「東京大学協創プラットフォーム開発」とそろい、いよいよイノベーション・エコシステムの構築は次なるステージに入りましたが、目の前にある課題をを着実に進めることが重要です。そのためには、人員の拡充が課題です。

 私は専任教員という立場ですが、どの大学においても、産学連携領域でずっと雇用されている人はほとんどいません。

 幸い東京大学は、シリコンバレーでベンチャーキャピタルをしていた人や、コンサルタント経験者などの同僚が来ているので、相対的には上手くいっていると思います。

 一方、事務職員でも教員でもないプロフェッショナル人材、いわば第3の職種に相当する優秀な人材をいかにして、ある程度長期雇用できるかがチャレンジです。

 また、インキュベーション面ではベンチャー教育、アントレプレナーシップが重要だとすると、無期雇用の教員も必要で、これも今後の課題です。加えて、ベンチャーを経営する人材の確保も課題です。

 卒業生で大企業に務めていた方がベンチャーの世界に入ってくるようなことも当然出てくるでしょう。

 日本では大企業や金融機関に優れた人材が偏在していますが、日本全体のイノベーション・エコシステムとしてこれで良いのかは考えなければいけません。

 新しい産業創造のためにしかるべき人材がシフトしていくことが、求められていると思います。

飯田樹(編集者/ライター)
国際基督教大学教養学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。西欧政治思想史、 現代政治理論を専攻。
株式会社マイナビにてニュースサイト「マイナビニュース」の編集記者、ウェブメディア運営企業などを経験。 各種媒体での取材・執筆・編集、冊子の編集、進行管理、校正、広報誌/広報サイトの編集、プレスリリース作成、 SNS運用などを手がける。分野は、働き方・キャリア、社会、マネー、教育など。

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