デジタル化
ロールフィルムをもっと使いやすくしようとした規格や、電気的にアナログ記録を行うカメラなども開発されたが、写真を巡る環境の流れを大きく変える端緒になったのは、(小さなスクリーンながらも)撮ったその場で即、見ることのできるデジタルカメラの登場である。
1995年 3月発売 カシオ計算機 デジタルカメラ「QV-10」
「デジタルカメラ」とその便利さを一般に広めた
GFDL, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=902434
初期のころは画質も高くなく、メモリカードなどに保存可能な枚数も少なく、通信回線もまだ太くなかったので他人に送ったりするのも一手間であったりと、総合的な利便性としては難点も多いものであった。しかし、「即見られる」ことがもたらすUXは強烈であった。
技術の進歩によりこれらの難点は徐々に改善されていったが、デジタル写真が大きく普及するトリガーとなったのは、携帯電話にカメラが搭載され、撮った写真をメールなどですぐに送れるようになったことである。
常時持ち歩く携帯電話に搭載されることで、意識してカメラを持ち出さずとも、いつでも写真が撮れるようになった。そして撮った写真を、その場にいる人達が即見られるだけでなく、離れたところにいる人たちにも即見せられるようになったのである。
その「携帯電話で撮った写真をメールで送る」という行為に与えられた名前、「写メール」もキャッチーかつ効果的であったと言えよう。こうした新しい行為や概念に、端的な名前を付けるということは、よいUXデザインのひとつであるとも言える。
2000年11月、初の内蔵型カメラ付き携帯電話 シャープ製「J-SH04」
2001年夏季から「写真付き写メール」という名称でキャンペーンを展開した
さらに短縮されて「写メ」となって広まったこの言葉は、時代が進んでその行為がごく日常的な当たり前のことになった。SNSなど「送る」手段の多様化などにも伴い、元々の意味が薄れ、単に「携帯端末で写真を撮る」という意味で使われたり、そもそも使われなくなったりしつつある。
撮るモチベーションの日常化
「日常的に撮ること」を可能にしたデバイスはカメラ付き携帯電話であるが、「日常的に撮る」モチベーションを大きく引き上げたのが、SNSの普及であろう。メールの場合は送る相手を選ぶ必要があり、送られる側としては(特に携帯端末の場合)半ば強制的に見せられるので面倒な場合もある。
SNSであれば、ゆるく「知り合いたち」へ向けて送ることが可能であり、送られる側も自分のペースに合わせられる部分が多い。
そのため、日常のより取るに足らないことも発信しやすい。そして、「取るに足らないこと」は文章で描写するよりも、絵的に見せたほうが早い場合も少なくないので、「SNSに載せるため」に写真を撮ることも増えていく。
写真を撮る機会が増えると、他の用途でも写真を使うようになりやすい。例えば、紙に書かれたメモや、PCの画面上の情報(文字や地図情報)を、手で写したりメールでURLなどを送ったりする替わりに写真に撮る人も少なくないであろう。