IT部門はITにこだわり過ぎていないか
デジタル変革の推進役が期待されるIT部門では、最高情報責任者(CIO)がCEOらと密に連携しながら、デジタル変革の進め方を模索している。前項に挙げた新入社員の環境整備のフローを自動化するサービスはその一例だろう。
ただ、多くのIT部門はこれに限らず、業務システムが自社のビジネスの妨げならないよう継続的な安定稼働に精力を注いでいる、社員が仕事をしやすいよう、ITに関する相談事へ親身に対応したり、業務の仕組みを整えたりすることにも取り組んでいる。その上で、デジタル変革という新たな仕事へどう臨めばよいのか。
Donahoe氏は、デジタル変革の推進している企業ではCEOとCIOがしっかり目標を共有し、その目標に向けてIT部門がなすべきことをCIOが統率できていると指摘する。
「この目標とは、顧客体験やロイヤリティ、収益性の向上や社員の満足度アップ、コスト削減といったビジネスの視点だ。実際に会うCIOの2割は、IT部門ではなく事業部門などの出身だ。CIO自体の役割も変わりつつある」
Donahoe氏によれば、CIOの中にはITに対するこだわりが強く、ITのことだけを考えるCIOが少ない。デジタル変革におけるITの役割は、あくまで手段であって目的ではない。「最近ではCIOの肩書がCTOに変わってきた。『T』はTechnologyではなく、Transformation。つまり、テクノロジの責任者ではなく、変革の責任者と位置付けるようになっている」
コンシューマーにおけるデジタル体験という目的は、インターネットやスマートフォン、電子決済、ソーシャルメディアといったさまざまなテクノロジの手段によって実現した。Donahoe氏は、職場のデジタル体験には、クラウドベースのエンタープライズソフトウェアが鍵を握るだろうと話す。
「業務ごと、部門ごとにサイロ化している職場は、社員のデジタル体験を妨げる。クラウドベースのプラットフォームによって共通化を図り、IT部門が風通しの良い職場に変革する。社内には変革を好む人もいるので、IT部門が彼らの成功をサポートしていくのも良い」
Donahoe氏は、コンシューマーのデジタル体験を目にしてきた企業の経営層が、かつてないほどに、自社のデジタル変革の実行に意欲を燃やしていると話す。そのためのクラウドのテクノロジもこの10年で成熟し、企業利用に十分に応えるものになったと見る。「だから、デジタル変革の推進役が期待されるIT部門にとってはいまが最高のチャンスなのだ」と語っている。