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FinTechがテクノロジ企業に--「本屋」から学ぶ顧客第一主義としたたかさ - (page 2)

小川久範

2017-08-30 07:00

徹底した顧客第一主義に基づく経営

 Amazonは、なぜ「本屋」からテクノロジ企業になることができたのか。なぜ、さまざまな摩擦を起こしながら、既存の業界を破壊してきたのか。なぜ自らの既存事業を破壊しかねない新規事業に取り組むのか。その最大の理由は、徹底した顧客第一主義である。

 テクノロジ企業へと進化したのは、顧客が本当に求めているのは書籍というモノではなく、モノを選ぶ際の判断材料であったり、買い物の際の煩わしさの解消であったりするためである。Amazonは、商品ページにユーザーレビューを載せ、レコメンドエンジンにより商品をお勧めし、ワンクリックで買い物を簡単に行えるよう、テクノロジを活用してサービスを開発してきた。AWSにしても、エンジニアが顧客のために新しいサービスを次々に開発できるよう、インフラへのアクセスを自由にしたことがきっかけである。

 さまざまな業界を破壊してきたのも、顧客を第一に考え、事業を展開してきた結果である。業界を破壊したという表現は、Amazonに対して失礼かもしれない。同社はより良い品ぞろえと、より低い価格で顧客に商品を販売してきたに過ぎない。もちろんそれが不当廉売なら許されないが、Eコマースで全国に商品を販売している会社がそのようなことを行っても意味がなかろう。

 不断のコスト削減による値下げと、ユーザー体験の改善を20年以上に亘り行ってきた同社のサービスレベルを、今やユーザーは当然のものと思っている。Amazonと競争する小売業には、同社と同等以上の価格水準とサービスレベルが求められる。しかし、それは容易ではないため、結果として多くの競合が淘汰されてきた。

 書籍販売事業を破壊しかねない電子書籍を積極的に推進するのは、それを顧客が望むからである。もちろん音楽業界におけるAppleの躍進から、コンテンツのデジタル化のスピードが想定以上に速いという危機感もあっただろう。ただし、だからといって自ら既存事業の破壊に積極的に取り組むことができる企業は稀である。Jeff Bezosは創業者であるから、このような意思決定は比較的行いやすかったかもしれない。

 しかし、『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき(クレイトン・クリステンセン著)』がベストセラーになった後の時代において、破壊的技術への対応を取らないのは経営者として怠慢であろう。現代の経営者の仕事には、既存事業を適切なタイミングで破壊することが加わったと考えるべきである。

 企業が上げる収益に対し、経営者はそれを顧客、従業員、株主へどのように配分するかを決定する。顧客に多く配分するのであれば、原価率を高めて良い製品を提供したり、価格を引き下げたりすることになる。従業員へ多く配分する場合は、給料を上げる、ボーナスを増やす、福利厚生を充実させるといったことが考えられる。株主への配分を多くするには、コストを削減し、利益を増やして、配当を増額すればいい。

 日本企業は、かつては松下幸之助の水道哲学に代表されるように、顧客への配分を重視した経営を行ってきた。また、日本の職場は利益集団ではなく共同体と言われており、従業員への配分も手厚かったと思われる。一方、株主への配分は諸外国と比べ低いと言われてきた。近年では、外国人株主の増加などもあり、株主への配分はかつてよりも増加傾向にあると言えよう。また、人口の減少が予測される状況において、人材確保のために従業員への配分も一定以上の水準を維持する必要があると考えられる。こうした状況を受けて、日本企業の競争力が落ちてきたと言われる業種では、顧客への配分が減少しているのかもしれない。

 他方、Amazonは一貫して顧客への配分を最大化する経営を行ってきた。常に最低水準の価格を顧客に提示し、買い物における顧客体験を最大化するサービスの開発に努めてきた。そのため利益水準は低いものの、長期的に市場の占有率を高めるという考えは株主に受け入れられ、株価は高水準となっている。従業員については、同社は大手テクノロジ企業の中では比較的待遇が良くないと言われつつも、優秀な人材を集めている。結局のところ、圧倒的な成長こそが、企業の諸問題を解決する最良の処方箋なのだろう。そしてそれは、顧客への提供価値を最大化することで実現できると考えられる。

 ただし、筆者はAmazonが競合に対して圧倒的な競争優位を確立しているとは思わない。商品の価格は最安値水準かもしれないが最安値ではない。サービスはもちろん素晴らしいものではあるが、競合が最早Amazonには追いつけないと競争を諦めるほどではない。これがGoogleであれば、今から検索エンジンに参入しようという企業は、まず存在しないだろう。

 Amazonは、細かい部分で少しずつ競合に勝る部分を積み重ねてきた結果、少なくとも現時点において、もっとも顧客に支持されているという見方が正しいのではないだろうか。同社が顧客第一主義を忘れ、進歩を止めてしまえば、顧客は他のEコマースサイトで買い物をするだけである。だからこそ、Amazonは常に顧客体験の改善を目指し、利益を押し下げることすら厭わず、新サービスの開発に投資しているのであろう。

 検索エンジンの技術力や大量のデータを持つGoogleや、ネットワーク外部性が働く規模にまで成長したSNS(Social Network Service)を持つFacebookのように、圧倒的な競争優位を確立した企業であれば、超過利益を得るのは容易である。一方、AmazonがいくらGoogleやFacebookと並び称されようと、小売業における同社の市場シェアは、インターネット広告市場やモバイル広告市場におけるGoogleやFacebookのそれに遠く及ばない。しかし、圧倒的な競争優位がなくても、顧客を第一にサービス開発に投資を続ければ、持続的成長が可能なことをAmazonは示している。

 FinTechの業界構造も、Eコマースに近いものになると推測される。特定の企業でなければ提供できない独自性の高い金融商品は基本的に存在しないため、FinTech企業が商品やサービスにより圧倒的な競争優位を築くのは難しいだろう。そのような業界構造の中で成長するには、最低水準の金利や手数料でサービスを提供し、利益を出す余裕があるのならそれをサービスの改善に投資し続ける必要がある。そして、細部において顧客に価値を感じてもらえる要素を積み重ねていくしかない。FinTech企業に求められるのは、Amazonのような徹底した顧客第一主義である。

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