Li氏 われわれが今日、データ科学と呼んでいるものは、業界における数学やコンピューティングの応用という長い歴史のほんの一部でしかありません。
私がこの業界に足を踏み入れた際に、最初に手がけたのはウォールストリートにおける金融関連の仕事でした。私に与えられた役割は当時、「クァント」(Quant:Quantitative Analysis:定量的分析)と呼ばれていました。その役割は、資本市場における取引方法を見つけ出すとともに、株価の推移を予測するというものです。われわれは、今までこの業界で使ってきたツールやテクノロジがIT業界でも採用され、強化され、簡単に使えるようになるとともに、ずっと有用なものになるという流れを目にしてきています。その後、コンピューティングのコストが引き下げられ、ウォールストリートにおけるごくわずかな専門的な問題だけでなく、金融サービス業界におけるありとあらゆるメインストリートの問題に適用できるようになったのです。
——保険業界やその他の業界をまたがるデータ科学の類似性についてもう少し語ってくださいませんか?
Buluswar氏 保険業界とその他の業界を比較した際に、最初に目につく大きな差異として、保険業界が業界として産声を上げた初期の頃から保険数理という職種があったという点を挙げることができます。保険業界におけるアナリティクスは、数理計算によってけん引されてきたという側面が大きく、これによって保険業界特有の機知ある競争力や能力がもたらされていました。
今日の保険業界において、データ科学を適用できそうなより幅広い役割というものを考えた場合、セールスの際、すなわち引き受け判定を実施する際における人間の判断を根本から再形成するということが挙げられます。さらに保険金の支払いの際にも、データやテクノロジのレンズを通し、10年、12年、15年前には現実的でなかったやり方で判断できるようになるでしょう。
その他多くの業界と同様に、保険業界にも販売や流通というチャネルがあります。商品の価格決定に関する商品チャネルというものもあります。そのうちの一部は販売した商品のコストであり、それ以外は市場の購買意欲や顧客の要求、また要求の弾力性といったものを理解することになります。
また、データを本当の意味で豊かなものにするという約束を達成することも忘れてはいけません。このため、バリューチェーンを中核要素にまでブレークダウンしていくと、他の業界との類似点が現れてくるのです。
例えばヘルスケア業界を考えてみてください。ヘルスケア業界はおそらく、保険業界よりもずっとトランザクション数が多く、さまざまなデータを取り扱う業界と言えるはずです。そして、金融サービス業界や銀行業界、クレジットカード業界などと同様に、ほとんど常に顧客とのやり取りが発生しています。このため保険業界は、その他の業界と比べると、必ずしも豊富なデータや豊富なトランザクションデータを扱っているわけではないと言えます。(しかし)早い時期に商品のコストを知るということは間違いなく重要なのです。