つい先ごろ、ロンドン郊外にある真新しい巨大なデータセンターのオープニングに行く機会があった。寒い日だったため、ホール内にはいくつかのヒーターが点々と設置されていたが、しょせんはサーバラックが延々と並ぶことになる広大な施設である。暖気はすべて天井へと逃げていた。
寒さに身を縮めている筆者を見た幹部の一人が、「こういった場所は、人間のために作られていませんからね」と申し訳なさそうな顔をした。
個々の企業が、多くのアプリケーションやデータをクラウドに移すのは、確かに理にかなっている。しかしホールセールクラウドへの移行により、新しい予期せぬリスクが生まれる危険はないだろうか?
コンピューティングの次なる時代には、アプリケーションや処理能力の提供方法として、クラウドが主流になるのは明らかだ。
もともとデータはメインフレームに保存されていた。それがPCに、そして企業のデータセンターへと場を移し、今度は再びクラウドへ移行している。
企業はもはや、人件費のかかるITスタッフを雇用して、自社のインフラを管理する必要がない。計算能力をサービスとして購入し、これまで用心深く守っていたアプリケーションやデータを第三者に任せ、違う国もしくは違う大陸に置かれているかもしれない無名のデータセンターを通じて、利用できるからだ。
巨大なクラウドプロバイダーにしてみれば、自社のメガデータセンターからサービスを提供することで、大規模なスケールメリットを実現できる。そうした施設は、IT資源の設置を可能な限り効率化するために、あらゆる要素が緻密に計算し尽くされている。
自社システムの最適化に、そこまで徹底的に取り組める企業はごく少数だ。そのため、データやアプリケーションを、クラウド専門の大企業に委ねることを選ぶ企業が増え続けている。必要な計算能力が変化したり、また月に1度など、集中的に利用したりするアプリケーションの場合、クラウド利用は経済的にも理にかなっている。一方、ワークロードが予測可能なアプリケーションであれば、クラウドは従来モデルより高額になるかもしれない。
ハイパースケールプロバイダーとサイバー事件
ハイパースケールと呼ぶにふさわしいクラウドプロバイダーは、IT最大手、つまりAmazon Web Services(AWS)、Salesforce、Google、Microsoft、Oracle、Facebook、Apple、騰訊(テンセント)、eBay、阿里巴巴(アリババ)などの企業だろう。