予期的UXとモチベーション
ここで考えてきた主に「使い始める」ためのモチベーションは、“UX白書”(#1) の Figure 2 に登場するUXの時間軸による分類のうち、予期的UXの部分に関わるものである。
こうした図にも現れているが、「UXは (製品などの) 利用の前後も含めて考えるべき」とは言われていても、やはり往々にして「利用時」を中心に考えられてしまい、予期的UXに関しても「その後、それを使う」ことや「(高確率で) 使うに至る充分な動機が既にある」ことを無意識に前提としがちである。
それで良い場合もあるが、そこを疑ってかかったほうがいいような場合も多く、モチベーションの要素なども含めた予期的UXをしっかりと考慮せねばならない。
USER EXPERIENCE WHITE PAPER最後に
日常の暮らしや業務でも、面倒な手続きや事務作業をやり始めるモチベーションをどう出すか、を考えてしまう人も多いだろう。結局は「やり始めるに勝るやる気の出し方無し」であったりもするのだが、そうしたときに、システムやインターフェースや、あるいは書類のフォーマット (紙、デジタルを問わず) などもだが、それらをどう改良すればモチベーションが出しやすくなるか、なども考えてみていただきたい。
もちろん、他人に作業などを依頼するときにも、同じように考えてみていただきたい。ヒューマンエラーの防止などと同じく、モチベーションに関わることも、ユーザーの心構えなどに帰着させるのではなくできるかぎりデザインで対処すべき事柄の1つである。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。