これからのビジネスにおいて重要なICT環境の要素は一体何になるであろうか。「クラウド」「モバイル」と答えるかもしれない。クラウド、モバイルを基盤として、「人工知能(AI)」が今後ビジネスの中に浸透していくのは疑う余地もない。
これからの鍵はエンタープライズAIだ。しかしながら、エンタープライズAIがビジネス、業務に浸透して付き合うことによって何が生まれるのかまだイメージがついていないかもしれない。組織内のデータをエンタープライズAIが次々と分析していくことによって、日々の業務の形もより簡素にかつ創造的に変えていく。
ここでは、なぜエンタープライズAIに期待をするのかを、データ活用の形の変化、データ活用の4段階の”A”から見ていくことにしよう。
データ活用の4段階の”A”
現在のAIは学習により自動的に判別、判断、予測、意思決定する能力をもつ。AIを導入するためには学習のためのデータを準備しないと始まらないと思っている方がいらっしゃるかもしれない。そんな心配は特に業務においては不要だ。もう既にデータはたくさん存在する。逆に大量のデータをどのように扱えばいいのかを悩むくらいだろう。
大量のデータを蓄積するという観点ではクラウドが担ってくれる。それらのデータを気軽にアクセスするという観点ではモバイルが担ってくれる。さらにそれらのデータを使って業務に役立てるという観点では、AIが担ってくれるのだ。
これを整理すると次のようになる。データはそもそも正しく蓄積されていつでも取り出せること(accessing)が重要である。データがただ取り出せるだけでなく、そのデータを分析・統合することによって、対象を把握すること(analyzing)が重要となる。
次に、データを分析・統合するだけでなく、その結果を諸々の必要な問題に適用すること(applying)が重要となる。さらに、データの分析・統合した結果を問題に適用し見つけた解決策を実際に実世界で行動すること、作用すること(actuating)が重要となる。
つまり、データ利用は技術の進展と共に、accessing、analyzing、applying、actuatingと進化していく。筆者はこれをデータ活用の4段階の”A”と呼んでいる。特に、大規模データではaccessingについて、クラウドやモバイルが担ってくれている。さらに、analyzing、applyingへと進めるのにAIが非常に強力なツールとなる。ちなみにactuatingは、「ロボット」もしてくれるが、それだけではなく、データをフルに利活用した人間が本来役割を担わなければならない。現場の業務で能力を発揮するのはあくまでも人間である。
クラウドをより活かすエンタープライズAI
ここまでの話で、別にデータなんて利活用できなくてもいいし、エンタープライズAIなんていらないと思った方もいらっしゃるかもしれない。それは、大きな間違いだ。
大量のデータを蓄積・保持するために、「クラウド」を導入したケースも多いだろう。データ量が増えている理由としてICTが発展しているのもあるが、それだけではない。ICTの発展により、業務の効率化が起こり、明らかに人間がこなすことのできる業務量も上がっているのである。業務量が上がっているからこそデータ量も膨大になっていくのだ。
一昔前までは、この生成されたデータについて、われわれが手で1つ1つチェックすることができた。その頃はデータが正しく蓄積されて、いつでも取り出せること(accessing)ができれば十分であった。しかし、データ量が増えると、人間の手で一つ一つチェックすることが難しくなる。そうやって、チェックをされないデータ群は、サイロ化に陥ってしまう。「クラウド」は大量のデータを気軽に蓄積、保持するに好都合であるが、新たなサイロ化を招いてしまう欠点もある。エンタープライズAIの導入は、大量なデータを対象として、分析・適用(analyzing、applying)、つまりは一種の解釈をしてくれるのだ。それによって、横断的なデータ連携が可能となる。