小売業の成功を左右する2本の柱--“デジタルの一手”をどう打つか

池田一樹 (ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン)

2018-07-09 07:00

 小売業界に関する明るいニュースはあまり報じられていませんが、統計データによると前向きな展望が開けつつあります。オンラインショッピングの市場拡大に伴い、小売業者はよりコミュニケーションに根差した顧客基盤を構築し、より良い顧客サービスの提供を目指しています。小売業界には変革の波が押し寄せていますが、変革が意味するのは「混乱」ではなく「移行期」であると言えるのです。

 世界中の小売業者と仕事をしていく中で、私たちは「活性化」と「改革」の事例を数多く目の当たりにしてきました。ジャンルや規模を問わず、小売業者は顧客ニーズの変化と、業界構造の変動が引き起こした課題に直面しています。しかしながら、テクノロジの総入れ替えや戦略上の工夫といった小手先の対策にとどまらない、あらゆる小売業者に当てはまる普遍的な真理が存在します。すなわち、小売業者が成功するためには、現代における小売業の中核を成す2つの柱に投資することが必要不可欠である、ということです。

正確な在庫管理

 オンライン店舗、実店舗を問わず小売販売の軸となるのは在庫管理です。個人商店であれ、先進の流通網を誇る超大型店舗であれ、在庫管理の効率化はサプライチェーン全般においてトラブルを削減し、利益を生み出します。その立役者となるのがテクノロジの活用です。

 市場競争を勝ち抜くために不可欠なのは、より優れたショッピング体験と信頼できるサービスを顧客に提供すること、そして在庫と値付けのリアルタイム可視化です。米Zebra Technologiesが実施した「ショッピングの顧客満足度とテクノロジ活用に関する調査2018」によると、買い物客は商品の在庫切れ、および同じ商品が他店で安く売られていることに不満を抱く傾向があります。これらは力を持った今どきの買い物客にとって耐えられない事象なのです。従ってサプライチェーン全般においてデータを可視化し、知見として活用することが重要な意味を持つのです。

 在庫のデジタル化とリアルタイム管理を目指す小売業界で注目を集めているテクノロジがRFIDです。時代遅れの紙とペンや、力不足のモバイル端末では話になりません。RFIDは即座に、かつ効率的にあらゆる側面から商品を追跡することができます。商品ごとにRFIDタグを取り付けることで在庫精度は95%改善し、在庫切れは80%削減されます。RFID導入によって店員は正確な情報を即座に把握できるようになるため、顧客サービスの向上につながることも期待できるのです。

 小売業者はモノのインターネット(IoT)を導入することで業務の簡略化、店舗における顧客体験の向上、営業経費の削減、そして新たな収入源の確保を目指しています。並行して、手作業の自動化、および在庫管理の精度改善により、買い物客の不満要素である在庫切れ問題の解消にもつながるでしょう。

データドリブン型への移行

 正しいデータ活用は小売業者、買い物客双方にメリットがあります。データを取得、分析することで顧客の期待を超える革新的な発展に結び付き、競争力が強化されます。小売業者はデータドリブン型のテクノロジによって、あらゆる業務を可視化。顧客から知見や情報を導き出し、売上増加と作業の効率化に役立てることができます。一方、買い物客はカスタマイズされたショッピング体験を享受できるため、双方にとって相乗効果があるといえるのです。

 調査によると、買い物客の一人ひとりにカスタマイズされたクーポンを発信するビーコンや、在庫管理に役立つRFIDタグなど、小売業者によるIoTテクノロジへの投資が活発化しています。これらのテクノロジを導入することでショッピング体験の簡略化や活性化、カスタマイズ化のみならず売上増加、コスト削減といった効果が期待できます。今後3年以内にバーコード用モバイルプリンタや感熱式モバイルプリンタ、バーコード用ハンドヘルドスキャナ、モバイルコンピュータの導入を検討していると回答した小売業者にとっては、持ち運び可能であることこそが重要なポイントとなっています。小売業者は今こそIoTプラットフォームを導入し、データ駆動によってサプライチェーン全体をリアルタイムで可視化し、知見を導き出す時なのです。

小売業界の次なる一手

 2018年における小売業者の成功は、いかに買い物客へのサポートを重視したかによって左右されるでしょう。そこで欠かせないのが買い物客に関する情報の取得と、そこから得た知見を生かしてのショッピング体験の改善。カスタマージャーニーは店舗に足を踏み入れた瞬間から素晴らしいものでなければなりません。現実世界、デジタル世界のタッチポイントは、双方にとって最良のクオリティを保ちつつスムーズに機能する必要があるのです。

 小売業者は妥協なき今どきの買い物客を相手に、最先端かつ魅力的な顧客体験を提供しなければなりません。そのためには業務を発展させ続け、より確固たる商業戦略を実行することが大切なのです。調査では、小売業者がテクノロジに投じる予算は今後2、3年で上昇する見通しであることが明らかになしました。テクノロジの急速な進化は今後も続き、投資を切り詰めた小売業者は時代から取り残されることになるでしょう。

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