内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

ユーザー企業の「ポスト2020仮説」--不連続な変化が予想されるITトレンド

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト) 2019年01月16日 07時00分

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 デジタル技術の進展が急速に進む中、中長期的なITトレンドを見通すことの重要性はますます高まっています。ここでは、2020年以降に本格化すると見られるIT動向について「ユーザー企業」の視点から取りまとめた仮説を紹介します。

不連続な変化が予想される2020年以降

 ITRでは、毎年アナリストの合議によって、将来動向を見据えた予測、各々の分野で重視すべきキーワードとともに、注目すべきIT戦略テーマを選定しています。これまでもテクノロジは進化し、ITを取り巻く業界構造は変化し続けてきましたが、2020年以降はこれまでとは異なる不連続な変化が待ち構えていると予測しています。テクノロジの進展およびIT業界の動向を踏まえて、ユーザー企業の観点から、ITやデジタル技術の活用、投資、運営などに関して、2020年以降に予想されるユーザー企業に関する10の仮説を列挙すると図1に示す通りです。

図1.ユーザー企業の動向に関する10の「ポスト2020仮説」(出典:ITR)
図1.ユーザー企業の動向に関する10の「ポスト2020仮説」(出典:ITR)

・事業貢献型IT投資の拡大:社内システム向けのITインフラ、全社共通系およびコーポレート系のシステムは、製品のコモディティ化とクラウドシフトが著しい領域となっており、IT投資額という点では減少傾向となるでしょう。一方、各業種の本業である業種特化系・事業系を含むビジネスITや、新規事業や新業態を創出するデジタルビジネスは企業経営に直接貢献する領域であり、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)の台頭とも相まって今後IT投資が拡大することが予想されます。

・デジタル人材をめぐる争奪戦の激化:デジタル技術を活用して新しいビジネスやサービスを発想する企画担当者、アイデアを具現化するための開発担当者、プロジェクト全体を統括する責任者といったデジタル人材は、業種を問わず不足すると予想されます。こうしたスキルは社内で養成することが困難なため、ITベンダーや異業種からの中途採用が活発化し、その結果として、経験豊富な人材の獲得コストは急騰するでしょう。

・データ分析専任組織の設置:有力なユーザー企業においては、データ活用によるビジネス上の効果が、一部の事業部門で実証されつつあります。このような企業は、より広範囲の事業部門でのデータ活用を実現するために、データ分析人材の育成と採用により積極的に取り組むようになるでしょう。同時に、データ分析専任組織を設置することで、限られたデータ分析人材を有効に、かつ戦略的に活用することが求められるようになると予想されます。

・システム開発の内製化指向:デジタルイノベーションに積極的な一部のユーザー企業では、SoE(Systems of Engagement)案件を中心に、システム開発のアジリティ(俊敏性)を高めるために内製化を指向するでしょう。一方で、外部リソースの活用は依然として必要となりますが、柔軟な契約や課金形態を取り入れることに積極的で、先進技術や最新の開発手法に対応できるパートナーを求める傾向が強まり、中小ベンダーやベンチャー企業を直接活用する機会が増加すると考えられます。

・共創型/委任型でのベンダー活用:イノベーション案件に関わる技術分野を自社で全てまかなうことは困難であり、ベンダーの活用は必要です。しかし、イノベーション案件は事前に要求を確定できないことが多く、従来のようにプロジェクトスコープや成果物を定めた委託型の契約形態をとることは難しいことから、イノベーション推進におけるベンダー活用方式は、共創型や委任型に移行し、近い将来に主流となることが予想されます。

・段階的なプロジェクト投資:継続的イノベーションを導くアプローチとして、リーンスタートアップ、デザイン思考、アジャイル開発といった手法が普及しつつあります。企業は、大型の初期費用を伴う旧来型のプロジェクト投資のあり方を見直し、市場の不確実性を前提とした新たな投資マネジメントの体制確立が求められており、より高頻度で意思決定を行うための段階的な投資を望むようになると予想されます。

・デジタルリテラシーの重要性拡大:各業種の本業となる事業分野においてAI、IoT、AR/VR(拡張現実/仮想現実)、モバイルなどのデジタル技術を活用して、業務を抜本的に変革したり、新たな顧客価値を創出したりする動きが活発化するでしょう。こうした取り組みは、従来の業務システムの構築と異なり、要件を明確に定義すれば望み通りのシステムが出来上がるものではなく、ビジネスオーナーの深い関与が求められるため、事業部門スタッフのデジタルリテラシーを向上させることの重要性が高まります。

・レガシーシステムからの脱却:レガシーシステムの存在が、ITコストの増大や業務の複雑化を招くだけでなく、ビジネス環境の変化への迅速な対応やデジタル技術の取り込みを阻害することが多くの企業において問題となっています。一方、PaaSの普及、サーバレスアーキテクチャの台頭などにより、クラウドシフトやマイクロサービス化を促進する環境が整ってくることから、多くの企業がレガシーシステムからの脱却への方針を固めるでしょう。

・AI/ロボットによる業務改革の進展:定型業務のAIやRPA(ロボティックプロセスオートメーション)への置き換えが進展するにつれて、業務プロセスの大規模な見直しを図る企業が増加することが予想されます。これにより、定型業務に携わる部門や人材は相対的に縮小化され、顧客との接点強化やビジネスの創出、組織内のマネジメントなどの業務によりリソースが割かれることになるでしょう。これらの業務には高度なコミュニケーション能力が求められるため、その支援を行うテクノロジも注目されるでしょう。

・SOCアウトソーシングの加速:増加するサイバー攻撃に対して政府の指導の下、ユーザー企業はCSIRT(セキュリティ対策チーム)やSOC(セキュリティ監視センター)を整備するとともに自社でセキュリティ要員を育成しようと取り組みを進めてきました。しかし、高い専門性が求められるセキュリティ要員を育成するまでにかかる時間とコスト、社員のキャリアパスから、自社での育成は進まないでしょう。そのためCSIRTの意思決定と連携機能は自社で構築するが、SOC機能についてはセキュリティベンダーへのアウトソーシングまたは要員派遣を利用することになると考えられます。

 不連続な変化が予想される時代においては、中長期的な展望を持つことがより重要となります。ここで示したポスト2020の仮説を読み解いて、自社のIT戦略方針や投資計画を打ち立てる際の一助として活用してもらえればと思います。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。

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