内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

IT業界の「ポスト2020仮説」--2020年以降に本格化すると見られる10の仮説

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト) 2019年02月13日 07時00分

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 デジタル技術の進展が急速に進む中、IT業界にも大きな変動が予想されます。前回は「ユーザー企業」視点から取りまとめた仮説を紹介しましたが、今回は2020年以降に本格化すると見られるIT業界の動向に関する仮説を取り上げます。

変動が予想される2020年以降のIT業界

 さまざまな業界において、デジタライゼーションの波が押し寄せていますが、この動きに最も大きな影響を及ぼすのがIT業界であると同時に、最も大きな影響が及ぶのもIT業界だといえます。顧客であるユーザー企業が、デジタル技術を活用して業務やビジネスを変革していくということは、すなわち、IT業界にもこれまでと異なる対応を求めることを意味します。

 現在、IT業界は人手不足といわれており、従来型の開発・運用案件も非常に多く、活況を呈しています。そのため、デジタルトランスフォーメーションを早急に進めなくても、十分に売り上げを拡大していけると考えているIT企業の経営者は少なくありません。しかし、2020年以降にはこれまでとは異なる不連続な変化が待ち構えていることが予想され、気がついた時には、世の中の動きから取り残されているということになるかもしれません。

 また、ユーザー企業も、IT業界の動向を注視し、自社のデジタルトランスフォーメーションを支援してくれる的確なITベンダーを選定していかなければなりません。テクノロジの進展およびユーザー企業の動向を踏まえて、2020年以降に予想されるIT業界に関する10の仮説を列挙すると図1に示す通りです。

図1.IT業界の動向に関する10の「ポスト2020仮説」(出典:ITR)
図1.IT業界の動向に関する10の「ポスト2020仮説」(出典:ITR)

・メガクラウドの席巻:国内企業のクラウド活用は第2段階に入っています。仮想サーバだけでなくPaaSなどを活用し、クラウドをデジタライゼーションやグローバル展開を推進するためのIT基盤と位置付ける企業が増えると考えられます。これらの企業は、先進的で多種多様な機能を次々と提供し、世界規模で展開するメガクラウド事業者が自社に最適なパートナーと考える傾向にあります。国内のクラウド事業者はこれらメガクラウドとの協業を強化することが求められます。

・大型開発案件の減少:ユーザー企業において、大規模システム開発や長期運用委託といった大型投資案件の見直しが進み、より小規模かつ短納期での発注形態が増加すると見られます。外部活用を維持・推進するユーザー企業は、イノベーション案件に関する支出を変動費として捉え、従来型システムについてもより短いサイクルでの評価・検証を行う傾向を強めることが予想されます。大型契約による受託開発や運用アウトソーシングを手掛けるSIベンダーは、ポスト2020に向けてその動向を注視することが求められます。

・SI下請け構造の部分的崩壊:大型開発案件と一括請負契約の減少、有力企業による内製化の動きなどの影響から、システム開発およびSI案件の小ロット化が進み、多重下請け構造は部分的に崩壊する可能性があります。特定の業界や技術分野において他社にない優位性を持つSI企業やITベンチャー企業は、ユーザー企業から直接指名され、契約を勝ち取ることができますが、これまで大手ベンダーに依存し、得意分野と営業力を磨いてこなかった下請け中小ソフトハウスは淘汰(とうた)される可能性があります。

・受託開発から共創へのシフト:一括請負型の受託開発が減少する中、大手SIベンダーは次なる成長分野として業種特化系・事業系のビジネスITや新規事業や新業態を創出するデジタルビジネスの領域に注力しようとしています。この領域は不確定要素が多いため、企画・構想化段階からアイデア創出と実装を短いサイクルで回し、段階的にイノベーションを実現していく協業・共創のスキームが必要となります。大手ベンダーは顧客との共創を促進するプログラムや場の提供を活発化させ、受託開発からの脱却を図ろうとします。

・システム開発でのAI/ロボット技術の活用促進:AI(人工知能)/ロボティクス技術のコモディティ化に伴い、業務システムにおいては、それらの技術の利用を前提とした設計・開発が行われるようになります。特に、機械学習やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)の機能の一部は既存ソフトウェアに組み込む形で提供されるようになると見られます。また、開発者のコーディング/デプロイ作業の自動化、プロジェクト管理の最適化などの支援を行う技術も一般化することが予想されます。

・デジタルBPOへの転換:少子化・高齢化が進む中、企業は恒常的な人手不足に加え、デジタルトランスフォーメーションを担う人材難に悩まされており、BPO(業務の外部委託)は今後も成長すると見られます。しかし、AI/ソフトウェアロボットの適用が進み高度化するにつれ、土台となる業務そのものの自動化・無人化領域が拡がっていきます。従来型の請負的なBPOやオフショア型BPOは大きく様変わりを迫られ、デジタル技術を前提とした新時代のBPOが今後主流になっていくと予想されます。

・契約形態の多様化:ITベンダーと顧客企業間の契約において、プロジェクトの目的や成果物の特性に見合った形式に課金形態を多様化する動きが活発になります。大型開発案件においては準委任契約と請負契約をフェーズごとに判断する多段階式契約、ソフトウェアライセンス契約においてはサブスクリプション型、共創によるデジタルビジネスの創出においてはレベニューシェア型などの形態が増加すると見られます。

・IoT・AIセキュリティのマーケット拡大:従来の情報セキュリティ製品のマーケットは、オフィスにおける事務系のシステムが中心でした。研究開発部門や工場などの制御系システムに対するセキュリティ対策は、誤動作などの問題があり注力されていませんでした。しかし、最近のIoTやAI技術の普及によって事務系に代わりサイバー攻撃対象の中心になりつつあり、セキュリティ対策のニーズが高まってきています。セキュリティベンダーはこれらのIoT、AI領域のセキュリティ製品・サービスの拡充を行うことになるでしょう。

・一般企業のITプロバイダー化:あらゆる業界でデジタライゼーションが進行し、一般企業(主に大企業)がITを活用したイノベーションやデジタルビジネスの創出への取り組みを活発化させます。デジタル技術を活用した新規事業を開拓しようとするユーザー企業は、本業の事業分野の強みを生かしてクラウドサービスやプラットフォームビジネスを展開し、サービスプロバイダーとなることを指向するでしょう。そのため、ユーザー企業とITベンダーとの境界はあいまいになると考えられます。

・5Gネットワークサービスの普及:日本の5G(第5世代移動通信)ネットワークは、2020年までに商用化され、低遅延(1ミリ秒)かつ広帯域(5Gbps)を実現すると予想されます。5Gネットワークの普及により、製造現場、コネクテッドカー、あるいはサービス分野におけるロボット活用が進むとともに、多くの企業において無線による通信環境が構築されることとなります。

 不連続な変化が予想される時代においては、中長期的な展望を持つことがより重要となります。ここで示したポスト2020の仮説を読み解いて、ITベンダーや技術の選定、契約形態やベンダーとの関係性の在り方を検討する際の一助として活用してもらえればと思います。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。

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