Amazon EchoやGoogle Homeなど米国でスマートスピーカーが発売されるや、中国でも追随するように百度(Baidu)、騰訊(Tencent)、阿里巴巴(Alibaba)、小米(Xiaomi)、京東(JD)などから同種の製品が登場した。またAmazonの「Echo Show」のタッチパネルディスプレイもあるスマートスピーカーこと「スマートディスプレイ」製品は、2018年より中国メーカーからも発売を開始されている。大手では百度の「小度在家」や、騰訊の「騰訊叮当」や、阿里巴巴の「天猫精霊CC」が発売されている。
百度の小度在家は、中国で最も早く2018年の3月に発表され、4月に発売が開始されたスマートディスプレイだ。対してAmazon Echo Showの初代は2017年5月に発表され、12月に発売。2代目は9月に発表されている。値段については当初は599元(1万円弱)で発売された。それでも安いが、現在は最安値で379元(6000円強)という低価格で購入することができる。天猫精霊CC(2019年1月発売。499元)や騰訊叮当(2018年12月発売。899元)は発売されたばかりだが、やがて3社がスマートディスプレイの土俵で価格競争を行っていくだろう。2019年の中国のEC祭りの6月18日や11月11日あたりには、5000円で買える程度には値段は落ちるのではないだろうか。ハイテクに関心のある中国人にとって値段のハードルはそう高くはない。
筆者は小度在家を導入した。小度在家はAndroidを搭載していて、操作はタッチパネルディスプレイか音声で操作ができる。タッチパネルで操作するに、若干スクロールがもたつくがゲームを利用するわけでもないし、アプリストアもないので問題はない。ウェイクワードは「小度小度」だ。ウェイクワードで声をかけた反応はAmazon Echo chowと似ている。
「ニュースを見せて」といえば動画ニュースを表示し、「ニュースを聞かせて」といえば音声で紹介する。「電話をかけたい」「こんな映画を見たい」と言えばそれに合わせて再生する。天気やウィキペディア的なことを調べることが可能だ。待ち受け画面はさまざまな静止画のニュースや、「こんな質問ができますよ」「こんな声掛けができますよ」「子供向けのお話を表示して」「この歌を聞きたい」といったサンプルの表示ができる。ただしデフォルトでは、中国のトップニュースが幾つか流れる関係で、「政府はどういう方針を発表した」といったプロパガンダ系のニュースが多くなるのはご愛敬だ。
百度のスマートディスプレイを紹介したが、阿里巴巴や騰訊のスマートスピーカーも所有していた経験でいえば、これらスマートスピーカーもスマートディスプレイ同様に音声で音楽や音声コンテンツを再生し、天気やToDoを教えてくれる。コンテンツは百度や騰訊や阿里巴巴それぞれが抱えるコンテンツサービスが版権を所有しているので、特に課金することなくさまざまな音楽を無料で再生してくれる。音楽を再生するのだから、スピーカーのクオリティにもこだわっていて音質はいい。値段についても魅力的で商戦期などで100元(1600円)を切る思い切った価格で販売される。
このように中国のスマートスピーカーやスマートディスプレイは、普通にあれこれ使える製品だ。実際スマートスピーカー未経験の中国人に使わせても特に抵抗なく使ってくれるし、便利だと認識してくれる。ところが製品のクオリティ、値段の安さ、充実したコンテンツにも関わらず、中国ではスマートスピーカーが普及しない。
米国においてはCIRPによると6600万台のスマートスピーカーが利用されていて、全人口の5人に1人が所有している計算となるが、中国はどうも遠く及ばない普及率のようだ。出荷台数にしても調査会社のStrategy Analysticsが3カ月おきに発表する四半期データにおいて、いずれも阿里巴巴、百度、小米といった中国企業の数値は、AmazonやGoogleに遠く及ばない状況だ。すなわち現状ではあるが、米国との差は開くばかりとなっている。
こうした状況なので、中国の企業や個人メディアから「中国でなぜスマートスピーカーは普及しないのか」についての分析記事が上がっている。
一つの分析として、中国人の音質へのこだわりが少ないために、そもそもスピーカーを必要としていないのではないかという理由が上がっていた。なるほど確か中国の市場で見かけるスピーカーはただ音が大音量で出ればいいものばかりで音質にこだわった製品はそれほど出回っていない。にコンパクトで使えるスピーカーを導入した家庭はあまり見たことがない。イヤフォンにこだわる人はたまにいるし、オーディオマニアもまれにいるが、そうした人はレアだ。
また別の分析として、Amazonほどさまざまなサービスを百度、阿里巴巴、騰訊らが広く展開してないからではないかという分析もある。実際使ってみると、ECに強い阿里巴巴のスマートスピーカーはどうかというと、スマートスピーカーでの買い物は使えるものではない。百度のスマートディスプレイにはデリバリーの美団のアプリが入っているが、これがまたとりあえず作ってみたレベルで実用的とはいいがたい。
中国のモノ作り、特にソフトウェアでそうなのだが、最初にモノを作った後、ヒットしてから頻繁に更新をかけてよくしていくというクセがある。ソフトウェアが不十分なまま見切り発車して値段を安く提供したものの、それでも売れないので、ソフトウェアが更新されないという、ネガティブスパイラルにはまってしまったのではないかと想像するのだ。
ネガティブスパイラルを抜け出せるのだろうか。調査会社の前瞻産業研究院によると、スマートスピーカーは大都市でのみ売れているという。となると、地方都市や農村部で売れるような売り方ができたとき、スマートスピーカーは中国で一気に普及し、ソフトウェアも合わせてアップデートされ、使えるものに仕上がっていくことになるだろう。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。