展望2020年のIT企業

スポーツ力向上に役立つ製品やサービスを提供する福岡発ベンチャー

田中克己 2019年02月25日 07時00分

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 競技力の向上を目指すアスリートや指導者、研究者らに、無線センサを駆使した製品やサービスを提供する福岡発ベンチャーのスポーツセンシングが、ポリエステル事業などを展開する帝人フロンティアと協業し、心拍を測定するウェアラブル端末を開発した。両社による合弁会社の帝人プロンティアセンシングが2019年1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES 2019」に製品を出展して注目を集めた。

無線センサを駆使して体の動きなどを測定、分析

 2015年9月に設立したスポーツセンシングは、無線センサを得意とする受託開発会社の新規事業部門としてスタートした。スポーツを研究する大学や研究機関に、アスリートの動きなどを測定、解析するために必要な無線センサ製品を開発、提供する。数年取り組む中で、受託開発会社が分社を決めて、新規事業の責任者だった澤田泰輔氏が38歳で社長に就いた。2017年2月には経営陣による企業買収(Management Buyout:MBO)という形で資本を分離し、澤田氏が株式を買い取ったという。

 分社、さらに分離した背景には、受託開発と自社製品事業の文化の違いもあったようだ。澤田氏はフリーランスのエンジニアとして活動していたが、受託開発会社に勤める大学時代の同級生に「新規事業をやるので、手伝わないか」と誘われて入社したという。2009年ごろに自社製品事業を立ち上げるものの、受託開発とは異なるビジネスモデルなこともあって、「新規事業の部隊が会社の中で異端になってきた」(澤田氏)

 例えば、自社製品事業には問い合わせや注文の電話が頻繁に鳴り、来客もある。そんな騒がしい職場と静かな受託開発の職場が隣り合わせにいる環境を想像できるだろうか。収益構造も異なり、ボーナスを含めた給与体系も新規事業と受託開発では、合わなくなってきたという。

 分社に当たって、社名から何をしているか分かるようにスポーツセンシングとし、「スポーツに役立つ無線センサの製品なら、なんでも手掛けた」(澤田氏)。主に、大学や研究機関のスポーツ研究者ら向けにアスリートの体の動かし方や鍛え方、走り方などを測り、分析するために必要なツールやサービスを提供するBtoBビジネスになる。

 そのビジネスをいかにして広げているかが課題だった。若年齢層からシニア層までスポーツの対象は広いが、BtoBビジネスを手掛けるスポーツセンシングでは、こうしたBtoCのニーズに応えるのは難しい。そこで、帝人フロンティアと組むことにした。「実は分社する時から思っていた。人材は少なくし、テクノロジの幅も狭い当社だけでは、製品開発のスピードが遅いので、相乗効果のある会社とコラボし、役立つものをより早く出せる方法を考えていた」(澤田氏)

 澤田氏はそう判断し、2018年4月に合弁で帝人フロンティアセンシングを設立した。澤田氏は代表取締役社長を兼務する。

 帝人フロンティアから出向する帝人フロンティアセンシングの代表取締役で最高執行責任者(COO)の梅田朝和氏によると、帝人フロンティアの繊維やバイタルデータ収集の技術と、スポーツセンシングの無線センサ技術を組み合わせて、心拍測定ウェアやモーションセンシングなどのウェアラブル端末の開発に取り組んだという。帝人フロンティアが2019年1月に心拍測定ウェアを発表するとともに、帝人フロンティアセンシングがCES 2019に出展する。

 スポーツからヘルスケア、工事現場、工場などの労働者の健康管理への活用を紹介したCES 2019への出展は、海外の反応を見るなどテストマーケティングの意味合いもあった。「思いのほか、反応は良かった」(澤田氏)と、国内外の心拍測定ウェアメーカーが一堂に介するCESに出展したことは、澤田氏らを勇気付けもした。

 人口が減少する日本市場では、体調管理や健康管理の用途を期待するのに対して、CESの来場者は赤ちゃんや子どもなどへの活用を模索してか、「こんな使い方はできるのか」「ここに使えるか」などと次々に質問してくるという。「モノ作りやサービス作りの考えが異なる」(同氏)、海外市場の立ち上がりにも期待する。

ウェアの着心地とデータ送信で差別化を図る

 競合との違いの1つは、ウェアの着心地にあるという。スポーツなど動いている人の心電計測は難しい。特にウェアに付けた電極がずれると正確に測れないので、どうしてもベルトなどをきつく締める。「それでは苦しくなり、使わなくなってしまう」(澤田氏)。そこで、帝人フロンティアの繊維技術などによって、「着心地を大事にするウェアにした」(梅田氏)

 データ送信や測定後にも工夫をする。「競合他社は、データをクラウドに上げるものが多いが、これだけでは使いづらい」(澤田氏)。例えば、工事現場で人が倒れたら、その人のデータをクラウドに送信するより、現場ですぐに分かった方がいいだろう。加えて、データをBluetooth経由でスマートフォン、そしてクラウドに送り、解析するのに対して、帝人フロンティアらのウェアは同時に多人数で使えてカスタマイズできるよう2.4GHz帯の独自無線通信を使ったという。「いろんな無線方式がある。どれを使うのかは重要な勝負になる」(同氏)。無線の受託開発を経験し、ノウハウを蓄積してきたスポーツセンシングのエンジニアの力でもある。

 そのスポーツセンシングは、これからもアスリートを測定、解析に必要な製品やサービスを開発、販売するビジネスを続ける。卓球でここに打ち込まれたら、どう打ち返すのかといった映像から複数のアスリートの動きを分析し、次に何をするかを考えるゲーム分析もする。一方、帝人フロンティアセンシングはスポーツセンシングで培ってきた技術を応用し、スポーツを愛する幅広いユーザー層の測定、分析に役立つ製品やサービスを展開する。

 なので、スポーツセンシングと帝人フロンティアセンシングの案件内容は異なる。例えば、体の動きを測定する場合、スポーツセンシングはアスリートの体の動き方などを高精度に測るなど、要件が厳しいものになる。対して、帝人フロンティアセンシングの案件はアスリートの速い動きを捉えるのではなく、長い時間にわたって測ったり、より多くの人を測ったりする。測り方や測るタイミングが違うのだ。

 梅田氏は「紳士服のメーカーや販売会社も顧客になる」と明かす。例えば、着る前と着た後の姿勢の変化を測り、顧客の身体状態をつかむウェアラブル端末だ。そんなニーズに応える上でも、現場で使いやすいウェアにする必要があるだろう。事例も増やし、実績を積み重ねるために、トップアスリートに使ってもらう一方、介護施設やリハビリ、工事現場での事例を作る。体温など測定対象も増やし、2019年夏から秋にかけての本格販売に備える計画だ。「今、がんばれば、誰も追随できないだろう」と、澤田社長は自信を深める。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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