課題解決のためのUI/UX

「消極的な人」のユーザー体験を考える--ハードルはどこにあるのか

綾塚祐二

2019-03-15 07:00

 これまでに何度も触れているが、ユーザー体験(UX)を設計するに当たっては、観察や経験に基づいてユーザーの行動や思考をできるかぎり適切に推察せねばならない。しかし、不慣れな人ほど「想定しているユーザー(のペルソナ)」に、自分たちにとって都合の良い(得てしてほとんどありえないような)行動や思考をさせてしまう。人の性格や考えはそれぞれ違う。自分と異なる考え方をする他人の思考をたどるのはもちろん簡単ではない。

 特に、自分が難なくできることに対して、そこに苦手意識を持った他人の思考をイメージするのはかなり難易度が高い。例えば、外交的な人が引っ込み思案で消極的な人のことを理解するようなものである(逆もしかりである)。難しいといっても努力をせねば進歩はない。今回は、消極的なユーザーについて考えてみる。

「消極的」な人たち

 組織には多くの人が属しており、コミュニケーションはとても重要である。社内SNSなどを導入して組織の活性化や知識の共有などを進めている企業も多いだろう。多数の人が発信・発言して、多くの会話や議論が行われるのが「活発化」している状態で、ほぼ全ての人がそこに参加するのが理想である。そうすれば良いものがどんどんと生まれ、組織全体の生産性も向上すると思っている人も多いだろう。

 しかし、そうしたやりとりが苦手だったり、情報の発信に消耗してしまったりする人もいる。そんな人に積極的な姿勢を強要するのは、運動が苦手な人に無理やりスポーツをさせようとするようなものである。

 きっかけや動機付けがあればいいのでは、と考える人も多いだろう。確かに順当な考え方だし、それによって動かされる人もいるだろう。だが、そうした働きかけ自体を苦痛に感じる人もいる。

 消極的な性格の人は、コミュニケーションの少ない環境の方が能力を発揮できる場合がある。消極性を「受け入れる」方向でデザインを考えた方が、組織全体としても個々の利用者にとっても良い体験をもたらすだろう。

ハードルはどこにあるのか

 消極性と一口に言っても、いろいろとタイプがある。神戸大学 准教授の西田健志氏は書籍「消極性デザイン宣言」の中で、「消極的な人は考え過ぎる人」と述べている。各種の行動をすることに対して、(他人からするとさほど/全く気にならないようなものも含め)心理的なダメージのリスクなどを考え過ぎて、怖さを感じてしまうのだという。動機が十分にあったとしても、怖さで行動に至らないということである。

 その対応策としては、心理的なハードルを下げたり、安心感を与えたりするのが望ましい。ただし、「どこにハードルがあるか」「どうやって安心させるのか」など、消極性の心理を多少なりとも理解せねば、有効な対応とはなり得ない。

 例えば、先述の書籍では、「スキーなどで他人は上級者向けコースで滑っているのに、自分だけ初心者向けコースなのは、逆に目立ってしまうので恥ずかしい」というような思考例が紹介されている。ハードルを下げられているのが周りに見えやすいと、かえって使いづらいということである。もちろん、「目立たないように」と全員を初心者向けコースに送り込むようなやり方でも、今後は上級者の満足度が下がってしまい、やはり良いものとはいえない。

 そうすると、それぞれの利用者の意図や希望をできるだけ叶えつつも、それ自体を表から見えなく/目立たなくする工夫が求められる。これはどのような場面でも可能というわけではないが、「利用者の選択が無意味にさらされるようになっていないか」ということを気にかけ、心を配るべきである。

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