山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

“抖音(TikTok)映え”する「高低差」で重慶の観光客が激増

山谷剛史

2019-04-02 07:00

 日本では「インスタ映え」「ツイッター映え」という言葉があるが、中国で「映え」といえば、「TikTok」こと「抖音(Douyin)」である。その「抖音(Douyin)映え」のおかげで、中国内陸の都市「重慶」は、ネット依存症の人々にとって熱い観光地となっている。

 重慶は中国内陸の直轄市(何とか省重慶市ではない)。人口は約3000万人と、中国の都市でも特に多いことが知られているが、面積も北海道並みに大きく、都市圏人口はそれほど多くはない。日本人的には三峡ダムと長江下りがあることで知られているかもしれない。長江のほかに、嘉陵江という大きな川があり、二つの大河の合流点の半島部分に旧市街の中心部があり、超高層ビルが建ち並ぶ半島部分は川沿いでありながら山がちであり、市内の移動でも高低差をいやというほど体感できる街である。

 そのため重慶中心部は山がちだ。高速道路のジャンクションのような立体交差は無数にあり、地図で見ると直線距離ですぐの場所が目的地でも高低差があり過ぎてものすごく距離があるというのはよくあること。シェアサイクルも全くニーズがなく普及しなかった代わりに、シェアカーサービスが次々にスタートした。交通では地下鉄のほか、日本も協力したモノレールもあり、市民の足となっている。モノレールに乗ると、地上からものすごく高いところを走っているかと思えば、不意に山の中のトンネルに入る高低差ある車窓を見ることができる。建物の下をくぐる場所もある。また市街地の上と下とつなぐ、ものすごく長いエスカレーターも市民の足となっているほか、市内をつなぐロープウェーも人気となっている。

 その高低差が抖音(TikTok)映えしている。ある月の抖音の都市印象動画ランキングトップ100では、2位の成都(四川省)、3位の西安(陝西省)がそれぞれ10本だったのに対し、2倍以上となる21本の動画がランクインした。抖音が地域推し動画をプッシュする2018年上半期の頃、重慶は一気に人気となった。「複雑過ぎる立体交差」「屋上に道路」「超高層ホテルからの摩天楼」などといった高低差が撮れる地点が新たな観光地となり、多くの人が動画を撮るようになった。

 重慶を訪れる新しいタイプの観光客は増えた。旅行予約サービスのctripによると、観光客の3分の1が4日以上重慶に滞在するという。また民泊予約サイトの「途家」によると、重慶を訪れる旅行客の4割が1980年代生まれ、1990年代生まれの若い世代であるという。それに伴い重慶で民泊が急増し、民泊市場(売上総額)は前年比3.7倍、予約数は前年比3.5倍となった。ただし高低差ブームで民泊を次々とオープンした結果、価格競争となり淘汰(とうた)が起きたほか、高層マンションで民泊を反対する動きも出てきている。

 多くの中国人が高低差による人工的な立体的な街の景色が「抖音(TikTok)映え」して面白いと感じているのだ。ならば日本も伝統的な観光地を海外に向けて発信するのではなく、変わった人口建築物や高低差ある景色を発信するのも大事ではないか。中国の抖音(TikTok)ユーザーに注目されれば観光は活性化するが、重慶で起きた副作用も考慮しておく必要があるだろう。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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