日本マイクロソフトは4月15日、米国時間2日に一般提供を開始した統合開発環境「Visual Studio 2019」に関する合同インタビューを品川本社で開催した。同社はVisual Studio 2019を、「日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進させるツール」(日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 製品・テクノロジマーケティング部長の田中啓之氏)と定義付けている。
田中氏は、「(日本企業が欧米企業を上回るには)組織や文化、人材の(マインドセットを)変えなければならない。当社は日本企業とともに作り上げ、負けないサービスを目指したい」と自社製品をアピールしつつも、IT業界における日本企業の成長を支援すると確約した。
日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 製品・テクノロジマーケティング部長の田中啓之氏
国内IT企業を取り巻く環境は諸問題が顕在化している。DXの文脈で欧米諸国の企業と比較しても、後塵を拝する現状が多くの調査から浮き彫りになっていることは改めて述べるまでもない。その理由として田中氏は、「エンドユーザー企業にエンジニアが少ない」と指摘する。日本市場を俯瞰(ふかん)すると、企業はパートナーへ外部委託し、情報ソースだけを保持する商習慣を続けているため、IT部門もしくはITソリューションをコストとして認識する傾向が強かった。これはビジネス部門がITを企業戦略の武器と捉えていないことを裏付けでもある。
他方で開発者は、バックエンドと複数のフロントエンドをまたがる多様な開発技術や開発言語の知識が求められるようになった。さらに、人工知能(AI)や機械学習といった新技術が次々とトレンド化し、さらなる学びを続けなければならない。このように企業側はもちろん現場の開発者にとっても厳しい状況ながら、能動的な開発者が増加しない現状がある。そのため知見を生かした新たなソリューションが国内から登場しないのだろう。
さらに、田中氏は「欧米はコンテナやサーバーレスなどアプリケーションを切り離した流動性が加速している」を話す。一方で日本のベンダー企業は後手に回り、導入マージンやハードウェアといった利幅の大きい商材に群がるような現状が、日本企業におけるDX推進の阻害要因となっているという。
日本マイクロソフトは、クラウドとの親密性を強化したVisual Studio 2019のリリースについて、「(日本企業のDXを推進する)千載一遇のチャンス」(田中氏)と意味付けた。Visual Studioは基幹業務システムからクラウドアプリまで、あらゆる場面の開発を担う製品である。同社は主な特徴として「開発生産性の向上」「モダン開発の支援」「継続性イノベーション」と位置付けながら、クラウドとの親和性を強調した。
Visual Studio 2019の主な特徴(出典:日本マイクロソフト)
Visual Studio 2019は、一部のSKU(最小管理単位)でパッケージを用意しているが、基本的には一定期間の使用権を得るサブスクリプションモデルを採用する。加えてMicrosoft Azure(以下、Azure)の使用料(本稿執筆時点では1万7000円/月分。Visual Studio 2019 Enterpriseが対象)を包含し、開発者がクラウドアプリ開発やテスト環境を得られるという長所を備えている。安価な開発環境をサーバープラットフォームとして使用できるため、チーム開発など既存の開発環境を移行させる上でも選択肢の一つに数えられるだろう。
だが、これまでの古典的な開発手法を中心にしてきた開発者が、即座にクラウドへ移行することは難しい。その点について田中氏は、「英語ベースだが、クラウドアプリ開発未経験の方に最適な回答をチャットで伝える『Azure Advisory Chat』を用意している」と話す。同社は、あらゆる顧客がAzure上で構築してきた構成を知見として蓄積し、「具体的な推奨構成を提案できる」(田中氏)という。
さらに各事業部がクラウドプラットフォームを利用し始めると、IT部門の管理が効かなくなってしまう。俗にいう「シャドウIT」だ。この課題についても、「Active Directory(AD)と連携する『Enterprise Mobility+Security(EMS)』を使えば、モバイルデバイスやクラウドアプリで扱うセキュリティ、クラウド全体のサイバーセキュリティ検出が可能」(田中氏)になる。
現在、日本マイクロソフトは6月30日までの期間限定で、企業内におけるDevOps促進を支援する「Enterprise DevOps Accelerator」を実施している。具体的には、効率的な共同作業や迅速な展開、継続的な統合や展開(CI/CD)を可能とするAzure DevOpsサービス(旧Visual Studio Team Services)を半額で利用できる。
同社は、Visual Studio 2019およびAzureの活用で、「企業は開発・テスト・デバッグ・デバッグ・デプロイのDevOps手法を実現できる。今は要件定義から始めるウオーターフォール型では時代に取り残される。我々はこの数年、パートナー同士のマッチングさせるエコシステム構築に取り込んできた。さらにエンドユーザー向けトレーニングの提供など、企業に属する開発者に対するリーチも強化している」(田中氏)と取り組みを説明している。