「エッジコンピューティング」という言葉は何を意味するのか

國谷武史 (編集部) 2019年05月02日 06時00分

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 2018年にIT業界で広まり出したキーワードの1つが、「エッジコンピューティング」だろう。Gartnerは、2019年に企業や組織にとって戦略的な重要性を持つテクノロジートレンドの1つに、「エッジ機能の拡張」を挙げている。この言葉が指す基本的な意味や現状について、同社リサーチ&アドバイザリ部門 インフラ&オペレーションズ ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのThomas Bittman氏に整理してもらった。

Gartner リサーチ&アドバイザリ部門 インフラ&オペレーションズ ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのThomas Bittman氏
Gartner リサーチ&アドバイザリ部門 インフラ&オペレーションズ ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのThomas Bittman氏

 Bittman氏によれば、エッジコンピューティングの概念をシンプルに表現すれば、「ITとリアルの接点」という。「1つのイメージとして、アナログのセンサーをデジタルに置き換え、センサーで取得したリアルな世界のデジタルデータを処理する『場所』になる。この『場所』は物理的な環境に限らないが、分散型で人やモノに近い『場所』を指す」

 このような概念に近いのは、2000年代中盤から広がり出した「クラウドコンピューティング」だろう。インターネット越しにある「場所」へデータを集約させ、そこで集中的な処理を行う。今ではその「場所」がデータセンターあるいはデータセンター群という具体的な姿になり、役割に応じて「IaaS」「PaaS」「SaaS」といった、より細かい捉え方もできるようになった。

 また、IT視点でのエッジコンピューティングは、個々のヒトやモノが所在する「エンドポイント」とクラウドの「中間」に当たるものとして簡略的に説明されることも多い。Bittman氏は、大枠ではこうした捉え方が間違いではないものの、本当のところはより複雑であり、容易に定義できるものではないと語る。

 「家庭やオフィス、ビルの中、工場内の設備、自動車の車体など、あらゆる場所が『エッジ』であり、『データが発生する場所の近く』というくらいの捉え方でいい。フォームファクターとしても、小型のサーバーもあれば、メモリーチップもあり、スマートスピーカーまでもエッジコンピューターを言うことができる」

 Gartnerでは、2022年までに企業で生成されるデータの50%以上がデータセンターの外の世界、あるいはクラウド上で作成、処理されると予測する。また、2020年に204億台のモノがインターネットに接続されるとしている。いわゆるIoT(モノのインターネット)がけん引する形で、2020年代の企業はエッジコンピューティングに当たるであろう仕組みを取り入れていくことになるだろう。

 既に、エッジコンピューティングに含まれそうな取り組みは、スマートファクトリーやスマートカーといったテーマで、それらを具体化すべく世界各地で試みが行われている。ただ、ここでは「エッジコンピューティング」に対する認識が関係者の間で少し異なることに起因して、各種テーマを具体化して歩みが滞るようなシーンが散見される。

 その1つは、データの処理をどこまでクラウド側に寄せるのか、極論すれば、クラウドはほとんど不要ではないかといった“綱引き”のような議論だ。IT側はできるだけクラウド側に寄せたいと考えるのに対し、エッジ側の立場(例えばメーカーなど)はクラウド自体を否定しないが、エッジでできることを見極めてから、どう“クラウドも”活用するかという感覚にある。特にリアルタイム性を求めるデータ処理のテーマほど、クラウドに寄せたがるIT側に警戒心を抱く傾向が見られる。

 こうした懸念は、新しいテクノロジーが出現した黎明期特有の取るに足りないものかもしれない。概念が具体化するに従って自ずと解消されるだろうが、後に禍根としないためにも、初期に解消できればそれに越したことはないだろう。

 Bittman氏は、こうした認識あるいは感覚の“すれ違い”を防ぐ上では、目的とするユースケースの具体性とそれに応じたエッジコンピューティングの実装方法などを明確にしておくことが重要だと話す。

 「エッジコンピューティングの活用が期待されるユースケースは、それこそ何千通りもあるが、目的を定め、データやその処理に要求するものは何か、そうした事柄を整理し、具体的な取り組み方について関係者間での議論を深めていくべきだろう。当然ながらあらゆるデータをクラウドに集めて処理することは非効率的で、エッジ側で事前にある程度クラウドへ展開すべきデータをフィルターにかけたり、できるだけ処理をエッジ側に寄せて完結させたりすることが必要なユースケースがある。そうした見極めが大事だ」(Bittman氏)

 Gartnerでは、エッジコンピューティングのユースケースを考える際の手立てとして、ビジネスを起点にした12のカテゴリーとその関係性を下のように示している。

「エッジコンピューティングのユースケースにおける12のカテゴリー」(出典:ガートナー)
「エッジコンピューティングのユースケースにおける12のカテゴリー」(出典:ガートナー)

 また、上記のような懸念に対してIT側でも幾つかの方策を打ち出す。例えば、オンプレミスでもクラウド接続を考慮し、データセンターのような機能や能力を確保したいという場合では、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)がある。そこまでの能力を必要としないなら、「エッジサーバー」などと称されるアプライアンスのようなソリューションが出始めている。Bittman氏は、極端に言えば、スマートスピーカーに高度なアプリケーションを追加して、その場で処理を完結させるような方法も取れるし、人間とのインタラクションを重視するなら既存のスマートフォンでもいいと話す。

 「さすがに家の中でHCIを使うようなことはないが、今後はユースケースに即した膨大な種類のフォームファクターが登場することになるので、エッジを選ぶ際にはこうした“ノード”が簡素であること、そして、人手がかからないことに留意すべきだ」

 現在のエッジコンピューティングは、あくまでその言葉が世の中に出てきたばかりに過ぎない。概念の捉え方によって、既に当てはまるモノもあれば、これから生まれるモノもある。そして、この世界では、従来に見られないような多彩なプレーヤーが関わってくる。「あるシーンではAppleとエレベーターメーカーがエコシステムを形成し、別のシーンでは競争相手になる可能性もある。1つのユースケースから始めつつ、全体像も捉えながら常にバランスを図る姿勢がまずは肝心だ」(Bittman氏)

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